憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (146) 『明日へのチケット』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (146)
『明日へのチケット』
(初出2006年11月27日掲載・H.T.さん記)
3人の監督による短編からなる最近流行のオムニバス映画です。
オーストリアのインスブルックからローマに向かう国際急行列車に乗り合わせた3組の客が遭遇したそれぞれ無関係な出来事を綴っています。
1枚目のチケットは、もの静かな初老の大学教授の物語です。
オーストリアへの出張からローマに帰る飛行機は全便欠航。
そして物々しいテロの警戒。
そこで、仕事相手のオーストリア企業の女性秘書が、広いテーブル付きの食堂車の2枚分のチケットを用意してくれます。
教授は知性的で心優しい彼女の好意に心がなごみ、いつしか初恋の少女にイメージをだぶらせ、幻想的な思いにひたっています。
ところが、肩を寄せ合うように列車の連結部に乗っていたアルバニア移民の家族に軍人たちが乱暴にぶつかって、
赤ちゃんに飲ませようとしていたミルクのびんを床にこぼして何事もなかったように通り過ぎて行く様が教授の目に入ります。
そこで教授が取った行動は…。
2枚目のチケットの持ち主はお金持ち風の太った中年女性が持っています。
彼女は席を間違えるのですが、気に入った席を頑として譲りません。
お供の青年にも威張りちらし、その驕慢さに乗客もうんざりです。
女性は将軍の未亡人、青年は兵役義務の一環として付き添っているのでした。
3枚目のチケットは、スコットランドからやってきた若い3人組みの陽気なスーパーマーケットの店員たちの物語です。
彼らは熱烈なセルテックFCのサポーターで、ローマとの試合を応援に行くところでした。
事件は、彼らが手にしていたチケットの1枚をアルバニアからやってきた移民一家の少年に盗まれたことから始まります。
一家はローマで働いている父親の所に移動する途中でしたが、お金がないため全員のチケットを買えなかったのでした。
3人の少年もギリギリのお金しか持っていないため、チケットがないと逮捕される運命にあります。
一家の事情を知った少年たちはさんざん悩んだ末に…。
多分日本では見られない光景がユーモラスなタッチで展開します。
見終わって、3つの出来事を繋ぐ糸は何なのか、すぐには分かりませんでした。
評論家はさまざまな見方をしています。
筆者は、テロと戦争の時代を背景に、軍隊を含めてさまざまな暴力をテーマにしているのではないかと思います。
老教授が出会った人間味あふれる個性的で詩的なシーンと、顔のない無機質ともいえる軍人たちの振る舞いは対照的に描写されています。
未亡人が青年を傲慢に扱う様は、人間の持つ悲しい暴力性がストレートに観客に投げつけられます。
アルバニアからの移民たちが置かれている環境は、国際的な構造的暴力(浦部法穂「憲法の本」26頁参照)でしょう。
映画からは、「人間誰もがかけがえのない平等な存在であり、一人では生きられない」ということが伝わってきます。
プラットホームに一人投げ出されたかっこうの未亡人の姿はそれを象徴しています。
「明日への」は、日本の配給会社がつけたタイトルです。
観客の一人ひとりに宿題を課した、なかなか気が利いたネーミングだと思います。
製作:2005年 イギリス/イタリア
時間:110分
原題:TICKETS
監督:ケン・ローチ/アッバス・キアロスタミ/エルマン・オルミ
主な出演者:マーチン・コムストン/カルロ・デッレ・ピアーネ/フィリッポ・トロジャーノ
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