憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (192) 映画『陸に上がった軍艦』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (192)
映画『陸に上がった軍艦』
(初出2007年8月6日掲載・H.T.さん記)
最近、戦争や軍隊経験の証言を映像化したすぐれた作品が目立ちます。人間としての極限の体験は、決して戦争をしてはならない、という日本人の腹の底からの信念となって、世界に先駆けて戦争を放棄した憲法を生み出し、支える原動力となりました。今や高齢になり、貴重な存在となった戦争を体験された方々が、次々と証言を遺そうとしています。
この映画は、95歳の世界最長老の現役映画監督の1人である新藤兼人監督の兵隊時代の実話のキュメンタリードラマです。「言い残したいことがある」という同監督が、原作、脚本、証言(節々で出演)を担当しました。新藤監督は、39歳の時「愛妻物語」で監督デビューし、「原爆の子」「第五福竜丸」など平和をテーマにした数多くの作品も創っています。
「陸に上がった軍艦」は、はでな戦闘シーンは出てきませんが、兵隊というもの、戦争というものはどういうものかということを、個性を失わない弱兵たちの目線から活写しています。
1944年春、シナリオライターを目指して燃えていた32歳の新藤さんは、召集令状を受けて、広島県の呉海兵団に最下層の二等水平として入隊。同年6月に宝塚海軍航空隊に配属されます。一緒に召集されたのは、洋服屋、旋盤工、八百屋、理髪師、農家などとして仕事と家庭を持った、一家の柱である30代の男たち100人でした。くじ引きで次々と戦場に送られ、死んでゆきます。残ったのは新藤さんら6人。海や軍艦はないが、宝塚大劇場を接収した「陸」の施設で、志願兵である若い兵長らによる、艦上を想定した猛烈な訓練が待っています。クズどもを「兵隊にする」と称して、「海軍精神注入棒」で殴る、失神したら水をぶっかけるなど容赦ない制裁の毎日。新藤さんは「理不尽さがまかりとおり、無感覚になる。やがて自分を放棄して戦場に出て行く」と証言しています。
軍隊とは、人を殺すシステムです。人間的な感情が残っていたら、兵隊は務まりません。
映画は、人間臭さも十分表しています。「本土迎撃作戦」では、“敵に進路を悟られないように”と、靴を前後反対に履いて行進したり、木製の戦車めがけて木の爆弾を投げつける風景には、滑稽さが感じられます。
楽しいのは、外出して家族に会える日です。“人間が繋がっている根源は性だ”と考える新藤さんらしい描写は、生活や個性を失っていない人間讃歌です(新藤夫人は1994年に亡くなった女優の音羽信子さん。おおらかで底抜けに明るい方でした)。反対に、無実の罪で拷問を受け軍刑務所に入れられ、“近寄り難い孤独”な廃人同様になって戻ってきた仲間の描写にも、逆説的な人間讃歌さえ感じられるは、新藤さんが尋常でなく暖かい眼で彼を見ていたからでしょう。
“この映画のテーマは平和だ。平和とは一人ひとりの家庭を大事にすることだ”と言う新藤さん。そして、“社会の中の人間を描くというのでなく、あくまで個という一人の人間が存在し、その向こうに社会があるという形で数々のドラマを創ってきた”とも言っています。これこそ、「個人」から出発して社会や国家を組み立てていく日本国憲法の思想です。その思想が、この映画にもはっきりと表れています。
だからこそ、この映画には、兵隊を描くことを超えた現代性が感じられます。個性を失わせ、自分を放棄させるさまざまな場における「いじめ」「画一化教育」「企業戦士」‥‥。
劇場には、時おり、笑いが漏れていました。野太い「真実」の語りを聞きながらも、肩の力を抜いて観られる、ペーソスやブラックユーモア溢れる映画です。
【映画情報】
製作:2007年 日本
監督:山本保博
原作・脚本:新藤兼人
時間:95分
出演:新藤兼人/蟹江一平/滝藤賢一/大地泰仁/池内万作/二木てるみ
語り:大竹しのぶ
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