焼け跡から生まれた憲法草案
焼け跡から生まれた憲法草案
NHKETV特集 2007年2月10日放送 90分
【上映の案内】
上映作品:ETV特集『焼け跡に生まれた憲法草案』90分2007年2月10日放送
【映画の解説】
日本国憲法が施行されて60年になる。
その誕生に新たな光を投げかける資料が最近、関心を集めている。
終戦直後、日本人が構想したさまざまな憲法草案である。政府やGHQとは別に民間の憲法草案が作られていたのだ。中でも注目されているのが、在野の学者やジャーナリストが党派を超えて集まった「憲法研究会」。
1945年12月に発表された「憲法草案要綱」は、国民主権と人権尊重の原理を掲げ、「日本国ノ統治権ハ国民ヨリ発ス」とし、天皇の役割は儀礼的なものに制限。
象徴天皇制の原型とも言えるものだった。
GHQの民政局はこの草案に着目。法律の下の平等や、拷問の禁止など、基本的人権の規定には、GHQの草案を通して現在の憲法にそのまま取り入れられた条文もある。
GHQが瞠目した画期的な草案は、どうやって生まれたのか。中心メンバーだった鈴木安蔵が書き残した記録からは国民主権に基づく新たな憲法を生み出そうと、議論を重ねていった様子が浮かび上がってきた。
番組では、敗戦直後の近衛文麿や政府の草案作りや進歩党、自由党、社会党、共産党の憲法案も紹介。焼け跡で、新しい憲法を構想した戦後日本人の姿を浮かび上がらせていく。 (放送当時のNHKの番組解説より)
【この番組について】
*インターネットで見つけた、この作品に対する含蓄の深い論評を紹介させていただきます。
2007年2月10日放送 NHK・ETV特集「焼け跡から生まれた憲法草案」
放送レポート編集長 岩崎 貞明
http://www.masrescue9.jp/tv/iwasaki/back_no/iwasaki12.html
日本国憲法施行60年を迎え、一方で憲法改正が声高に叫ばれるようになってきたこの時期に、日本国憲法の出自を丁寧に明らかにしながらその歴史的意味を問い直す好番組が放送された。
現 行の日本国憲法はアメリカの押し付けだ、という定説は改憲派の論拠のひとつになっている。たしかに、GHQ草案をベースに現在の日本国憲法の原案(大日本 帝国憲法の改正案)が日本政府によって作られたことは歴史的事実ではあるが、番組はそのGHQ草案の1ヶ月以上前にすでに日本の民間人による独自の憲法草 案が存在し、その草案が逆にGHQ草案にも影響を与えた可能性を指摘した。
それは有識者7人が1945年11月に結成した「憲法研究会」に よる草案で、主権在民や平和主義、表現の自由、男女平等などをうたっていた。7人の顔ぶれは高野岩三郎、森戸辰男、杉森孝次郎、馬場恒吾、鈴木安蔵、室伏 高信、岩淵辰雄という、当時の進歩的な学者、評論家、ジャーナリストらで、いずれも戦時中は治安維持法違反などで逮捕・収監され、または職場から追放され るなど、塗炭の苦しみを味わった人々だ。
敗戦後、GHQの指導により日本政府も「憲法問題調査委員会」(松本烝治委員長)を設置するが、日 本政府にはもとより帝国憲法を改正する意図は毛頭なかった。とくに天皇の権限を縮小もしくは削除するような改定はおよそ慮外のことだったようだ。その一 方、この「憲法研究会」のメンバーは、天皇制廃止も議論の俎上に載せながら、天皇の統治権を廃止し、「国家的儀礼を司る」という、現在の象徴天皇制に近い 制度を打ち出していく。
番組は、このような憲法草案が生まれた背景を掘り下げるために、研究会のメンバーで唯一の憲法学者だった鈴木安蔵に スポットを当てる。鈴木は戦前から帝国憲法の歴史的研究を手がけ、大正デモクラシー期の思想家、吉野作造の示唆などを受けて明治期 の自由民権運動に目をむけ、帝国憲法制定当時の議論の中から高知出身の植木枝盛による 「日本憲法」を再発見する。そこにはすでに「主権は日本全民に属す」と、国民主権の 思想が打ち出されていた。
番組はスタジオで古関彰一・獨協大学教授が、森田美由紀アナウンサーを聞き手に解説する。
古 関教授がもっとも強調した点は、いまの日本国憲法の精神が自由民権運動の伝統とつながっていること、さらにその源流はアメリカ独立宣言やフランス人権宣言 にあり、民主主義、自由と平等という普遍的な価値観の系譜にあることだった。GHQはこの憲法草案を入手してすぐに英訳し、その内容がすぐれて民主的で 「受け入れられる」ものであることを確認する。その後、マッカーサーノートが出され、GHQ民政局が徹夜を重ねて日本国憲法のGHQ草案を作ったというの が歴史の流れだ。
番組は最後に、研究会のメンバーだった森戸辰男が国会議員となり、政府が提出した帝国憲法改正案に対して「生存権」を盛り 込む修正案を示し、その修正などを可決して成立したエピソードを紹介する。ここでも、日本国憲法がアメリカのいいなりに作られたのではなく、日本人の智恵 が織り込まれていることが指摘され、さらにこの森戸修正がかつてのドイツのワイマール憲法を踏まえたものであったことも紹介される。
日本国 憲法が、歴史的・国際的な「正統性」のもとに生まれた、人類の英知の結晶とも言うべき存在であることが強く印象付けられる番組だ。再現映像なども交えて当 時の議論のようすを丁寧に描写しながら、全体として抑制の効いた控えめな演出の番組だから、「人類の普遍的価値を体現した日本国憲法が、一時の政治的な思 惑で安易に改変されていいのか」という番組制作者の叫びが聞こえてくるようだ、と評しては言い過ぎかもしれない。しかし、この番組が指摘する事実を踏まえ ずして、憲法改正論議は成り立たないと言いたくなるほど、深い内容をもった番組だったと評価したい。(了)
ETV特集「焼け跡から生まれた憲法草案」
終戦直後に「憲法調査会」が日本国憲法制定過程で果たした役割
http://www7a.biglobe.ne.jp/~setagaya-9jou/bbs1/949386895009415.html
—
録画してありましたので見ました。大変感動的内容で製作者に感謝したいと思います。
敗戦直後のあの時期に、民主的な憲法をつくるために奮闘した人々の思いがよくわかります。とくに憲法研究会が驚くような多様な人々の議論で草案をつくったこと、鈴木安蔵の大きな役割、GHQのなかにこの草案が優れていることを見抜く民主的な人がいたことです。
自 由民権運動の植木枝盛の憲法の考え方が現憲法に生きているなどは、これまで知りませんでした。世界の先進的な流れも反映している。現憲法は、おしつけどこ ろかこれらの先人たちの苦闘のなかから生まれたということがわかります。最近の研究成果にもとづいての番組と思いますが、学問研究の成果をこのような形で 紹介したNHKは、この番組で名誉を挽回したのではないでしょうか。すばらしい番組でした。
—
番組は感動的でした。録画したの で一人でも多くの人に見てもらいたいと思っています。学習会などでの活用もいいのではないでしょうか。内容を一言で言えば、GHQ案にもとづいて現行憲法 は制定されているが、GHQ案には手本があった。鈴木安蔵を中心とする憲法研究会の憲法草案である。そしてこの憲法草案には明治憲法制定(1889年)前 の自由民権運動家・植木枝盛の憲法草案(1881年)が種本になっている、ということです。
番組制作にあたって大いに参考にしたと思われる本があります。小西豊治『憲法「押しつけ」論の幻』(講談社現代新書、2006年7月刊)です。
この本の書評を五十嵐仁さんが書いています。
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/577/577-07.pdf
今回の番組と小西豊治さんの本の内容の本質部分をわかりやすく書いた文章も読むことができます。
弁護士・津久井進さんのホームページです。
http://tukui.blog55.fc2.com/blog-entry-230.html#more
津久井さんは、「日本国憲法の中身は、古くからの日本人の英知と、当時の日本の市民の良識が源泉になっているのであり、内容については,和製そのものといわなければなりません」「名・実ともに、メイドインジャパンなのです」と書いています。
鈴木安蔵は世田谷区下馬に住んでいました。番組では下馬に住む娘さんも取材されていました。鈴木安蔵をテーマにした映画「日本の青空」が来月には完成予定です。楽しみです。
—
ハーバート・ノーマンについては、思い出があります。
高校の日本史の授業の最初に、先生が沈痛な面持ちで、彼が亡くなったこと、自殺であったこと、安藤昌益についての優れた著作があることを話しました。戦後日本の改革に大きな貢献をした仕事については、もっと広く知られてよいと思っています。
—
良 質の番組でした。日本国憲法制定に、鈴木安蔵を中心とした「憲法研究会」の憲法草案が大きな影響を与えたこと、アメリカ独立宣言、フランス人権宣言、ワイ マール憲法など、国際的流れのなかで制定されたこと、GHQ案に対して国会の議論で生存権(第25条)などが追加されるなどの事実も紹介されていました。
「憲 法研究会」が、当時の驚くような多彩な分野の人7人をメンバーとし、そのなかで鈴木安蔵はただ1人憲法学者で、「不磨の大典」とされて研究されていなかっ た明治憲法制定史を研究、自由民権運動家の植木枝盛に注目していたことも紹介されました。彼がハーバート・ノーマンと親交があったことも初めて知りまし た。押しつけられた憲法という、木を見て森を見ない議論に根拠がないことを教える番組です。
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