報告 「栁沢協二さんの講演『迷走する集団的自衛権』」から
報告「9条フェスタ市民ネット学習会」で栁沢協二さんの講演『迷走する集団的自衛権』を聞きました。
栁沢協二さんは防衛官僚として小泉、安倍、福田、麻生政権で内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)として自衛隊のイラク派遣など官邸の安全保障戦略の実施を支えてきた人です。でも現在の安倍政権の安保政策の説明の抽象性、非論理性から、それがどこから来るのか、その真のの真の政策目的は何か、日本にとって有益なものかどうかを分析し発言し著書で明らかにしています。『亡国の安保政策――安倍政権と「積極的平和主義」の罠』。この日の講演もそうしたお話でした。
講演は、まず安倍政権が出した「15事例」について、その蓋然性(あることが実際に起きるか否かの確実さの度合い)と政策の問題をひとつひとつ疑問を投げかけ問題点を明らかにしていきました。
(講演のパワーポイント資料「迷走する集団的自衛権(PDF)」)
集団的自衛権行使容認が来週にも閣議決定されようとしている今、私が一番知りたかったのは「閣議決定が何なんだ?」ということと、「これからどのように反対の声を強くして第9条の勝手な解釈改憲を許さないか」というところでした。
栁沢さんの講演、から印象に残った話をいくつか紹介します。私の聞き取った範囲ですのでことばが違っているところがあるかもしれませんがご容赦ください。
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理屈がない、必要性もない閣議決定
「閣議決定をすること自体、理屈がない。閣議決定をするのは法律の範囲でしかできない。その法律案もないのに、何で閣議決定するのか、その説明が全 くない。普通は法律案を出すときに、閣議決定を行い、「この区分はこういう法解釈でやります」ということを決めていく。法律案も何もないときにあんな15 事例で法律なんかかけっこないですよ。法律案なしの閣議決定は法律違反であるし、ひいては憲法違反の閣議決定です。」
説明もなく強行すれば流れは変わる。こっからがスタートなんです。
「説明も十分でなくて閣議決定、そこまで行くとさすがに流れが変わってくるんじゃ無いかと思います。5月15日の記者会見のあたりからメディアも 『これって変だね、うさんくさいね』という声が出てきている。これで説明不足のまま「閣議決定」をすると批判の声が高まっていく。どんな戦争だって、優勢 に進めている軍隊でも潮目が変わる、ターニングポイントがある。今の15事例も、与党協議も、閣議決定も必要性、必然性、説得性がない。 必要性の ない説得力のない政策が実現するなんてあり得ない。だから閣議決定されたってそれが終わりじゃないんです。こっからがスタートなんです」
もっと智恵を使って外交をやれと言いたい。
「外務省には外交をやるには、背景に『力』が必要と言うけれども、私たち防衛官僚に言わせれば『戦争って言うのは外交がへたくそだから戦争が起きる』んです。自衛隊をやたら便利屋に使うんでなくてもっと智恵を使って外交をやれと言いたい。」
「やりたいんだもん」と言っているだけで議論がかみ合わない
「集団的自衛権にについて安倍さんにはそもそもスタートが具体性がない、本人が『やりたいんだもん』といってるだけ、これでは反論しようがない。記者会見でも、答弁でも全部自分のやりたいことに話が戻ってしまって議論がかみ合わない。反論しても相手に通じない。」
勇ましいことをいう人の意見が通りやすくなっている情況
「かつては自民党の閣僚や幹部でも『戦争なんてそんなつまらないものはやらない』というコンセンサスがあったが、そういう人がいなくてなって、やたら勇ましいことをいう人の意見が通りやすいそういう情況になっている。だから政策として何が何だか分からないものが出てくる。それを暴走と言っている。」
国民を信用していない、主権者である国民がなめられているんですよ
「どうしても集団的自衛権をやりたいのであれば憲法を改正しなさいと、憲法を変えてはいかんなどと憲法に書いていない。でもそれをやっていると『間に合わない』と言うんですね。間に合わないというような緊急のニーズがあるのか?あしたおじいさんおばあさんを乗せたアメリカの船が攻撃されそうなら、国民だってそれは分かりますよね。それを間に合わないからこうやって政府でやっていくんだというのはある意味、主権者である国民を信用していないと言うこと、国民をなめられているんですよ。時間がかかってもそれが民主主義なんだから、それが間に合わないというのならきちんと憲法の改正の説明をしなさいと、国民だってそれが正しければ理解しますよね。」
戦争をしない方が利益があるというリベラル抑止を働かせたらよい。
「脅しによる『抑止力』は俺の方が強い、いや俺の方が強いと言っているわけだから、ではその抑止力が実際に使われたらどうなるのか。戦争をしない方が得だ、戦争をしない方が利益があるというリベラル抑止を働かせたらよい。」
国民をナショナリズムで煽ることが東アジアの危機の要因になっている
「妥協も戦略である。クラウゼ・ビッチという人が『戦争論』の中で戦争をするための三位一体として❶国民感情を煽る、❷優秀な軍隊をもつ、❸理性的 な判断をする、としているが逆に戦争が起こらないための要素と考えたらどうか。「国民を煽らない」、ところが日本でも、中国でも、韓国でも、国民をナショ ナリズムで煽ることしか考えていない。 なぜか、それが票に結びつくし、支配に役立つからである。それが東アジアの危機の要因になっている。どう やってそれを転換させるかが問題。防衛力は持っているそれは静かにもっていれば良いもの、危機管理をしてしっかりとルールを作っていけばよい。」
集団的自衛権は自ら進んで戦争当事国になり、敵国になるということ
「集団的自衛権はよその国を守る権利ですから、日本も進んで、交戦している相手国の敵国になる、その戦争当事国になるということなんですね。という ことは相手からすれば日本を攻撃する大義名分ができるわけです。そうするとミサイルが跳んでくることになる。ではそうしたミサイルが飛んできたときの国民 の幸福・自由の追求権ってどうなるんですか、それをまじめに議論していかなければならない。」
政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることになる憲法違反
「そうしたときによく使いますよね、憲法の前文を引き合いに出して「自国のことのみに専念してはいけないのであって、国際社会に名誉ある地位を占めた い」とそこを使って言うのなら、その前文「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないように決意し、国民に主権があることを確認してこの憲法を 作った」ある。それを「我が国の存立が根本的に覆されていると」日本が攻められているならわかりますよ、そういう怖れがある、それを明白な危険があると置き換えてもそれは政府が決めることですから、もし政府が間違ったとしたらそれは『政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こっちゃうんじゃないの』というこ とですよね。」
「
粗雑な閣議決定で、政治の知的崩壊で国民のいのちが危なくなり、不幸になる。
「自分は抑止力を使うけれども相手は使わないのか、とお言う自分の都合のいいことだけを言うというそういう論理で今こういう粗雑な閣議決定がなされ て様としていると言うことが、政治の知的崩壊もここまで来たかと思います、そのことで本人達が崩壊するのはかまわないのだけれども、それで迷惑を被るのが 自衛官であり、海上保安官であり、警察官であり。その家族であり一般国民なんです。」
「血を流す」ってどう行くことか、いのちの尊さ自分の体験から置き換えて考えていくことが大切
「自分たちの体験にもとづいて考えていくことが大切なのではないか、『血を流す』って言うことはどういうことなのか、もっと重たく考えてほしい。歳 をとっている方が自分の体験について語り継いでいく、若い人は若い仁成、命の尊さを感じることはあるでしょうから自分の体験に置き換えて考えていくことが 一番必要なのでは無いかと思います。」
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講演を聴いた後に
防衛庁、防衛官僚という(荒々しさや冷徹さのような)私のこれまでの勝手なイメージとは違った、ひとことでいって落ち着いた紳士の話しぶりでした。 でもその中にこんなことがまかり通ってはならないという怒りと自衛隊員ももちろん国民一人一人のいのちの尊さを守らなければならないという熱い思いがある ことを感じました。
会場で早速、著書『亡国の安保政策』を買い求め、家に帰って読み始めました。
安倍首相の著書に書かれている「今の憲法解釈の元では、日本の自衛隊はアメリカが攻撃されたときに血を流すことはない。そういう事態の可能性はちい さいがそれでは完全なイコールパートナーとは言えない」と書いてあることに触れて、「血を流すと言うことは、自衛隊員の命が失われることを意味している。 わたしは、自らの生命の危険に身をさらすことのない立場の人間が、日本人である自衛隊員の命に関わることを軽々と口にすることに怒りを禁じえない」と敢然 と書かれていました。
そうなんです。安倍さん達の言っていることって「軽々」。まともに一所懸命考えての理屈、論議とは思えないのです。それにしても民主党を含め国会議 員の多数が集団的自衛権行使容認て何を考えているのだろう、何も論理的に考えていないのだろうか、どこに利益があると考えているのだろう、なぜ、まともな 思考が停止状態に陥っているのだろうか?S.H.
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