憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(288) 映画『誰も守ってくれない』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(288)
映画『誰も守ってくれない』
(初出2009年2月16日掲載・蓼沼紘明 記)
「出てきました。今、容疑者が家から出てきました」。よく視るテレビの画面です。家を取り囲む記者、レポーター、野次馬。カメラのフラッシュの列。報道と同時進行するネット上の中傷、罵詈雑言。加害者の家族にも、一生、その烙印がついて回ります。
テレビと映画の『踊る大捜査線』シリーズで大ヒットを記録した脚本家の君塚良一が映画監督に挑戦して3作目。エンターテインメントの魅力にプラスして、今回、社会的なメッセージ性の強い作品を発表しました。周防正行監督の「それでもボクはやっていない」の商業的成功に刺激を受けたそうです。『踊る大捜査線』時代に、加害者の家族をマスコミ攻勢などから守る刑事の仕事に接して企画したとのこと。
刑事・勝浦(佐藤浩市)は同僚三島(松田龍平)とともに、殺人事件で逮捕された18歳の少年の家族をマスコミと世間の目から守るために、騒然としている船村家に急行します。えぐられる容疑者像。責任を取ることを迫られる家族。家族3人は警察によってバラバラに保護されることになり、勝浦は容疑者の妹である15歳の中学3年生・沙織(志田未来)を担当することになります。勝浦は全体状況を把握できず戸惑う沙織を連れて自分のアパート、知人宅、ペンションなどを転々としますが、その度にマスコミに執拗に居場所を突き止められ、沙織はマスコミやネットにさらされます。
メインのテーマは、加害者の家族も興味本位のマスコミにプライバシーをあばかれ社会的に排除されるという意味で被害者となり、社会的に孤立し、人間不信に陥る現状の告発であり、マスコミですら追い付けないほどのネットの掲示板の速さ、過激さの描写です。被害者の保護は近年一定の制度化を見ましたが、加害者の家族も守る必要があることを説得的に問題提起しています。
ただ、家族を警察が守らなければならない社会というのはそれ自体異常です。さらには、世論をバックにして、「有害情報」の表現行為を規制するという名目で民主主義社会にとって正当な表現活動まで規制され萎縮するという重大な問題が生じます。現に、2010年の通常国会への上程に向けて、情報通信法(仮称)の検討が総務省で行われています。この法案は、放送と通信の融合を図るものですが、上記の重大な危険性を内包しています。
勝浦は、自分も負っている人間社会の複雑さをさらけ出しながら、沙織の心の痛みを理解して共に苦しみます。そうして初めて、バッシングされる沙織は、これからの過酷な人生に立ち向かう可能性を僅かでも見出してゆきます。普通の刑事にはできない勝浦の人間力に観客は感動して劇場を後にするでしょう。でも、刑事以外「誰も守ってくれない」社会であるならば、国家に依存して安心する倒錯した社会です。
【映画情報】
製作:2009年 日本
監督:君塚良一
脚本:君塚良一/鈴木智
時間:118分
出演:佐藤浩市/志田未来/柳葉敏郎/石田ゆり子/木村佳乃/佐野史郎/松田龍平
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