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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (222) 映画『母べえ 』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (222)
映画『母べえ 』
(初出2008年2月4日掲載・蓼沼紘明記)

母べえ

戦争の時代に、治安維持法違反で投獄された夫、肩を寄せ合って生きた家族、家族を支えた周囲の人たちの温かさを描いた愛の物語です。厳しい時代にあって信念を曲げなかった夫や、夫を理解し尊敬して子どもたちを懸命に育てた妻の、凛とした美しさが印象的です。

原作は、野上照代さんの半自伝的な物語「父へのレクイエム」です。1940年の東京。野上家では、貧しいながらも、ドイツ文学者の夫・滋(坂東三津五郎)と妻・佳代(吉永小百合)、12歳の長女・初子と天真爛漫な9歳の次女・照美の4人が楽しく暮らしていました。父の方針で、お互いを「父べえ」「母べえ」「初べえ」「照べえ」と呼び合うほのぼのとした家族です。しかし、その年の2月の未明、滋が治安維持法違反で突如検挙されます。令状もまともな取調べもなく、不衛生で貧弱な食事。見る見る健康を害してゆきます。残された佳代は、小学校の代用教員として、やせた身体で必死に働きます。「吉永さんでなければ撮るつもりはなかった」という山田監督の期待に答えて、63歳の吉永小百合が30歳の佳代を見事に演じ切っています。寅さんを思わせる笑福亭鶴瓶をはじめ、脇役陣の演技も光り、上質のユーモアや笑いもあふれる映画になりました。

滋が獄中から佳代に宛てた詩の一節です。「ぼくたちにこんな苦しみを強いるのは誰だ。君の内に輝く一筋の力。それがぼくに生きる力を与える。それはぼくが人間であることを思い出させてくれるのだ。」。映画を象徴している言葉の力だと思います。

治安維持法は、1925年、「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シ又ハ‥‥加入シタル者」を主な対象として制定されました。いわゆる自由主義者や宗教関係者を含め、検挙された者は6万人。起訴された者は6000人。多くの人々が病気や拷問で獄死しました。

最近は、戦争に反対するビラ、あるいは政党の区議団だよりをドアの郵便受けに投函しただけでも住居侵入罪で逮捕され有罪になるなど、表現活動に対する制限が顕著になっています。東京・葛飾の事件の東京高裁判決では、「財産権の侵害」という耳慣れない理由も加えられました。治安維持法の時代をほうふつとさせます。

吉永さんは「二度と映画のような時代にならないようにということを願いながら演じたつもりです」と、記者会見で述べています。
雑誌『世界』2月号には、時代背景や映画に込められた想いを詳しく語った山田監督と野上照代さんの対談が掲載されています。

【映画情報】
制作:2007年 日本
監督:山田洋次
原作:野上照代「父へのレクイエム」
時間:132分
主な出演者:吉永小百合/坂東三津五郎/浅野忠信/檀れい/笑福亭鶴瓶/倍賞千恵子/中村梅之助/志田未来

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