憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(284) 映画『チェ 39歳別れの手紙』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(284)
映画『チェ 39歳別れの手紙』
(初出2009年1月19日掲載・蓼沼紘明 記)
『チェ 28歳の革命』に続くパート2です。
1965年、ゲバラはキューバにおける№2の地位を捨てて目を世界に向け、ベルギー軍の干渉によって惹起された動乱のコンゴに出発します。コンゴはやがてアメリカに支援されたモブツが独裁政権を樹立。ゲバラは退却し、66年、ボリビアに渡ります。第2部はここから始まります。ボリビアは青年時代に放浪した国の一つであり、南アメリカでは最も貧しい国でした。64年にはクーデターでバリエントス軍事政権が成立していました。ゲバラは農山村に入って活動を始めます。スタイルはキューバのときと同じです。ボリビアの現地のゲリラたちは政府軍の捕虜の殺害を勧めますが、ゲバラは解放させます。しかし、補給路を断たれ木の皮もかじる生活に追い込まれ、悪化する喘息を治療する薬もありません。それでも僅かな食べ物は住民の子供にまず与えます。米軍に指導され圧倒的な物量の政府軍の空爆に、銃だけで対峙する彼らたち。ゲバラはサルトルやB.ラッセルらに支援を訴えようとしますが、届きません。ついに負傷して捕らえられ、翌日銃殺。67年10月、39歳でした。
映画が終わって誰も立ち上がれません。絶命した自分を横たえているように感じたのでしょうか。それとも、理想の実現のためにそうありたいと思った自分―全力を注いで不条理と闘ったと仮定したもう1人の自分―の死と、それにもかかわらずこうして生きてしまっている自分に気がついたからでしょうか。
「革命」に成功し、政権を奪取しても、人権抑圧の愚を行い、また、腐敗した政権も少なくありません。当然のことながら人々の支持を失いました。民主主義や立憲主義にも関わる問題です。もし、ゲバラが生きていたならどうしたでしょうか。「この手紙を読まねばならないとき、お父さんはそばにはいられないでしょう。世界のどこかで誰かが不正な目にあっているとき、いたみを感じることができるようになりなさい。これが革命家において、最も美しい資質です」。65年に書かれた5人の子供たちへの最後の手紙です。
中南米は、80年代は「失われた10年」、90年代は「絶望の10年」と言われます。IMFや世銀を介したアメリカ主導のむき出しの新自由主義政策の結果でした。しかし、今世紀に入り、アメリカの「裏庭」から脱却し自立を志向する「燃える中南米」となっています。昨年5月には、12カ国により「南米諸国連合」が設立され、「南米議会」の創設も視野に入ってきました。12月には、33カ国が参加して「中南米カリブ海諸国首脳会議」が開催されました。こうした会議ではこれまで米国が中心でキューバは排除されてきましたが、今回アメリカ抜きでキューバが参加し、中南米の変化を強く印象づけました。
最近の金融危機に端を発して、中南米どころか世界の資本主義そのものが問われつつあります。「かろうじて機能し始めたのは政府に支えられたマネーフローだ。…今年は資本主義の中核である市場を社会主義的な手法で支える異形の経済から逃れられそうにない(1月5日付け日本経済新聞・編集委員太田康夫)。禁句の「革命」から「社会主義的な手法」へ。すぐ隣にいる人に絶えず細心の心遣いをしつつ、世界中を見て誰にも臆することなく大きな夢と物語を語り、かつ行動したゲバラがもし存命だったら…。09年の新春にこの物語が上映されることは象徴的な意味を持っているかもしれません。
なお、ベニチオ・デル・トロは、08年度カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞しました。
【映画情報】
【製作】2008年 スペイン/フランス/アメリカ
【時間】133分
【原題】Che: Part Two
【原作】ゲバラ日記(エルネスト・チェ・ゲバラ)
【監督・撮影】スティーブン・ソダーバーグ
【製作】ローラ・ビックフォード/ベニチオ・デル・トロ
【製作総指揮】アルバロ・アウグスティン/アルバロ・ロンゴリア/ベレン・アティエンサ/フレデリック・W・ブロスト/グレゴリー・ジェイコブズ
【脚本】ピーター・バックマン
【出演】ベニチオ・デル・トロ/ デミアン・ビチル/ サンティアゴ・カブレラ/ ウラジミール・クルス/ エルビラ・ミンゲス
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