憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(282) 映画『そして、私たちは愛に帰る』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(282)
映画『そして、私たちは愛に帰る』
(初出2009年1月12日掲載・蓼沼紘明 記)

親と子、一番近くて分かり合える存在、しかし近すぎて断絶さえ感じる遠い存在。映画は、親子の相克と愛を深く構成しています。31歳の時『愛より強く』でベルリン国際映画祭金熊賞(グランプリ)を獲得したトルコ移民2世の鬼才ドイツ人監督ファティ・アキンが、07年のカンヌ国際映画祭最優秀脚本賞に輝いた話題の作品です。
「子供は親の人生を否定して歩み始める。親は、子供に否定されることで新たな人生を手に入れる。そこには子供からの愛があふれんばかりだ」(池田香代子)。
ドイツは労働力の補充のため、多数のトルコ移民を受け入れてきました。そのため、ドイツとトルコをまたぐ様々な問題が、親子の問題をより鋭利かつ本質的に浮かび上がらせています。「ヨーロッパにおける複雑極まりない民族の錯綜は、多くの悲劇を生み出してきたが、その中にあって、家族愛のみにとどまらず人間として、我々は皆愛に帰るのだという切なるメッセージは、現代の福音書のように胸を揺さぶる」(池田理代子)。
映画は3部構成で、それぞれのタイトルで結末が示されます。観客はそこに至る愛と死のスリリングな物語りに次第にはまってゆきます。結末が示されても、決して方程式のように割り切れるものではありません。
ドイツのブレーメン。トルコ系移民のアリ。定年後の人生をトルコから出稼ぎに来た娼婦イェテルと暮らすようになります。アリは早くして妻を亡くし、今は大学教授になったネジャトを育てて来ました。イェテルを粗末に扱いふとしたことで死なせてしまったアリに失望したネジャトは黙ってトルコに去ってゆきます。イェテルがイスタンブールに残してきた娘アイテンを探し、母親に代わって大学の学資を支援するためでした。しかしアイテンはトルコで反政府活動をして追われ、ドイツに不法入国して母イェテルを必死に探します。そのアイテンを一身を投げ打ち助けるドイツの女子学生ロッテ。ロッテの奔放とも言える無償の愛に、娘の身を案じる母親のスザンヌ。それ故に反目するスザンヌとアイテン。ロッテはイスタンブールに送還されたアイテンを追い、反政府活動に巻き込まれてあっけなく殺されます。ですが、イェテルとロッテの死は生きている人たちの深い魂を呼び覚まし、その人たちを強い糸で結びつけます。「すべての死は生誕である」。35歳の監督の言葉です。
3組の親子が、民族や文化の違い、教育に象徴される貧しさ、暴力、死と隣り合わせの生活の中でそれぞれの生を必死に生きています。親子の愛とは何だろう?親子を越える愛とは何だろう?パンフに書かれている1字違いの池田さんの評に同意します。
【映画情報】
製作:2007年 ドイツ/トルコ
監督・脚本:ファティ・アキン
原題 :Auf der Anderen Seite
時間:122分
出演:バーキ・ダブラク/ハンナ・シグラ/ヌルセル・キョセ/トゥンジェル・クルテイズ/ヌルギュル・イェシルチャイ/パトリシア・ジオクロースカ
公式ページ:https://www.bitters.co.jp/ainikaeru/
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