*

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (178) 映画『ツォツィ』

公開日: : シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (178)
映画『ツォツィ』
(初出2007年5月7日掲載・H.T.さん記)

320

最近、アフリカを舞台にした話題作が目白押しです。このコーナーでも「ナイロビの蜂」「ダーウィンの悪夢」「ルワンダの涙」を採り上げました。絶対的貧困の中にいる人々が多いアフリカ諸国の映画は、現代の矛盾を鋭く問いかけるとともに、劣悪な環境の中で生きる人間の崇高さ、人間らしさとは何かを教えてくれます。

「ツォツィ」もそんな映画の一つです。未成年者による殺傷シーンを理由に、映倫が「R-15指定」(15歳未満の鑑賞禁止)にしたため、映画鑑賞団体が、これほど命の大切さを感動的に描いた映画は、そんなにあるものではないと反発して、中学生にも見せる試写会が開かれた記事をご覧になった方も多いと思われます。

国連が「人類に対する犯罪」と呼んだアパルトヘイトの廃止から16年たった南アフリカ。今や経済成長率も高く、2010年のサッカーW杯開催地として先進国から注目される国です。しかし、人口の8割を占める黒人の圧倒的多数は貧困から抜け出せません。教育格差に連続する就職格差で、若者の失業率は50%を越します。南アは「世界一の格差社会」とも呼ばれています。

舞台は、最大の都市、ヨハネスブルグ郊外の黒人街ソウェト。掘建小屋はボロボロ、埃が舞い立つ道端、電気も水道もないスラム街。そこに暮らす主人公ツォツィ(タウンシップのスラングでギャングの意味)は、家族もなく、仲間とギャンブル、窃盗、暴力を繰り返す日々を送っていました。仲間があっけなくアイスピックで殺人をしても無表情。
ツォツィは、ある日一人で裕福な黒人女性を銃撃して車を奪います。しかし、車の後部座席から不意に赤ん坊の泣き声。ツォツィは立ち去ろうとしますが、一瞬迷い、赤ん坊を大きな紙袋に入れて運びます。新聞紙をおしめ代わりにし、コンデンスミルクを泣きわめく赤ん坊の口に流しこみ、あたふたと苦闘します。途方に暮れて、同じくらいの赤ん坊を抱いた女の家に押し入り、おびえる母親に母乳を飲ませろと命令。授乳しながら赤子に優しく語りかける姿にと惑い、古ガラスで作った玩具をじっと見つめます。ツォツィの目に初めて優しさが宿ります。

赤ん坊を奪われた女性がツォツィに対して示した態度は見ものです。凶悪犯として威嚇する警官の拳銃をしりぞけ、人間としてツォツィと向き合います。

子供は生まれる環境を選べません。教育も受けられず、誰からも愛情を注がれることのなかった彼らにとって、自分以外は皆憎むべき存在であり、暴力で自分の生活を勝ち取ることしか知りません。

憲法13条で規定している「個人の尊重」。これには「人は皆同じ価値がある」という意味があります。それは「国民」だけなのか。前文で規定する「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」という趣旨は「人は皆同じ」にも及ぶのか。考えてみる価値がありそうです。

法学館憲法研究所では、浦部法穂主席客員研究員(名古屋大学教授)が、「世界史の中での憲法」について連続講座(ライブオンライン)を開設しています。私たちが何となくわかったつもりでいる「人権」や「国家」など、映画の理解に役立つことがらを突っ込んで考えるきっかけになるでしょう。

【映画情報】
製作:2005年 南アフリカ/イギリス
監督:ギャヴィン・フッド
時間:95分
原作 :アソル・フガード
出演:プレスリー・チュエニヤハエ/ZOLA/テリー・ペート

******************************

【解説】

アパルトヘイト廃止後も続く南アフリカの厳しい現状をリアルに描き、アフリカ映画として初のアカデミー賞外国語映画賞に輝いた感動の人間ドラマ。ヨハネスブルクのスラム街で暮らす少年ツォツィは、仲間たちと窃盗やカージャックを繰り返す日々を送っていた。そんなある日、彼は奪った車の中に生後間もない赤ん坊を発見する。仕方なく赤ん坊を育て始めたツォツィだったが、やがて命の価値に気づき、人間性を取り戻していく。

2005年製作/95分/R15+/イギリス・南アフリカ合作
原題または英題:Tsotsi
配給:日活,インターフィルム
劇場公開日:2007年4月14日

以上 映画.com『ツォツィ』より
https://eiga.com/movie/33919/

ad

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

関連記事

i-img900x1200-1706947972728oc3ycr

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (127) 論考「映画は憲法をどのように映してきたか」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (127) 論考「映画は憲法をどのように映してきたか」 (

記事を読む

145明日へのチケット

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (146) 『明日へのチケット』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (146) 『明日へのチケット』 (初出2006年11月2

記事を読む

第88回「豹変と沈黙」案内チラシ(2026年5月13日入稿時)オモテ

第88回 憲法を考える映画の会『豹変と沈黙』

第88回 憲法を考える映画の会『豹変と沈黙』 第88回憲法を考える映画の会 ■日時:

記事を読む

三池 終わらない炭鉱の物語2

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (94) 『三池 終わらない炭鉱の物語』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (94) 『三池 終わらない炭鉱の物語』 (初出2006年

記事を読む

254おいしいコーヒーの真実

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(254) 映画『おいしいコーヒーの真実』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(254) 映画『おいしいコーヒーの真実』 (初出2008年

記事を読む

陪審員

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (176)映画「陪審員」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (176) 映画『陪審員』 (初出2007年4月16日掲載

記事を読む

ブラックブック

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (173) 映画「ブラックブック」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (173) 映画「ブラックブック」 (初出2007年4月9

記事を読む

第57回「地の塩」「人らしく生きよう」20201103・23(10月10日入稿時オモテ)

第57回憲法を考える映画の会『地の塩』

第57回憲法を考える映画の会『地の塩』 【上映会案内】 と き:2020年11月3日(火・休

記事を読む

96君の星は輝いているか -世界を駈ける特派員の映画ルポ-

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (96) 映画紹介の本『君の星は輝いているか -世界を駈ける特派員の映画ルポ-』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (96) 映画紹介の本『君の星は輝いているか -世界を駈ける

記事を読む

第46回「OKINAWA1965」20181010一部修正2

映画『OKINAWA 1965』

映画『OKINAWA 1965』   【上映案内】 第46回 憲法を

記事を読む

ad

ad


257生きものの記録
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(257) 映画『生きものの記録』 (初出2008年8月25日掲載・蓼沼紘明 記)

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(257) 映画『生きものの記録

mv37304_847427a9883eb57f4a87f22af78acfa1dc8d1
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(256) 映画『アメリカばんざい crazy as usual』」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(256) 映画『アメリカばんざ

255『闇の子供たち』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(255) 映画『闇の子供たち』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(255) 映画『闇の子供たち』

254おいしいコーヒーの真実
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(254) 映画『おいしいコーヒーの真実』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(254) 映画『おいしいコーヒ

1930652-01
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (253) テレビ『シリーズ 証言記録 兵士たちの戦争』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (253) テレビ『シリーズ 

→もっと見る

PAGE TOP ↑