憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (51) 『機動戦士Zガンダム―星を継ぐ者』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (51)
『機動戦士Zガンダム―星を継ぐ者』
(初出2005年6月6日掲載・F.J.さん記)
20年の“刻(とき)”を越え、待望の映画化。前作『機動戦士ガンダム』の正統なる続編。
新旧巧く織りなされた画が銀幕に映える。
舞台は、宇宙世紀0087年。地球連邦政府に対する、スペースコロニー国家・ジオン公国の独立戦争“一年戦争”の終結から7年。
連邦軍は、ジオン残党掃討を名目にアースノイド(地球出身者)のエリート組織“ティターンズ”を結成。
密閉された人工の生活空間コロニー内のスペースノイド(宇宙移民者)の自治権要求等の反政府集会を毒ガスで鎮圧。
それに対し、反地球連邦政府組織“エゥーゴ”が活発化。
そこには、クワトロ・バジーナ大尉と名を偽る、かつてジオンの“赤い彗星”シャア・アズナブルの姿もあった。
後に、(ネオ・ジオンへと発展する)残党勢力“アクシズ”も戦局に加わり、三つ巴の様相を呈する“グリプス戦役”を描く。
「その様子は『巨大な敵』を失った地球連邦軍が、その矛先を向けるべき相手を求めて」いたかのようであった(劇場パンフレット)。
もうひとりの主人公は、スペースコロニーの学生カミーユ・ビダン。
連邦軍憲兵への反発から、ティターンズの新型モビルスーツ・ガンダムMk-Ⅱを奪取し、シャアの導きでエゥーゴへ身を投じるところから、物語は始まる。
映画三部構成の第一部は、連邦に幽閉されていた一年戦争の英雄アムロ・レイとの再会(出会い)までを映す。3人の結びつきは、新たな“刻”を感じさせる・・・。
さて、憲法や戦争を考える際、並みのヒューマンドラマや戦争映画より人間味あってリアルな“ガンダム”の世界・歴史を観るのをおすすめする(公式年表・資料等も参照)。
まず、“ガンダム”(Gundam)の語源は、“銃”(gun)+“自由”(freedom)という説がある。
つまり、「銃」を持って「自由」を勝ち取った時代、これは「近代立憲主義」の西洋史と重なる。
とりわけ本作では、中央集権官僚制の退廃した地球連邦政府という超国家権力「からの自由」を考えることができる。
なお、“ガンダム”は、後の作品でも「抵抗」や「正統性」の代名詞となっている。
さらに、作中の“キーワード”は、憲法で考えられる人間像と通ずるところがある(と思う)。
地球の重力に魂を縛られた“オールドタイプ”(一般人)は、「共同体拘束的(他律的)な人間」「弱い個人」の問題である。
薬物投与・精神操作や先端技術により記憶・アイデンティティを喪失した“強化人間”は、「人間の尊厳」を侵害された戦争の道具である。
そして、“ニュータイプ”は、一説に、宇宙に出て認識・判断(自己決定)能力を覚醒(解放)させ、言葉を越えて思惟を発信し解かりあえる。
これは「『人』権」の想定する「自律的な個人」「強い個人」という人間像の進む方向と同じくしている(というのはいいすぎかもしれない)。
しかし、登場人物たちの実態は、両親や“恋人たち”との死別などを抱え、「善き生」を模索し悩む、あるいは、もはや見失っている「弱い個人」である。
彼・彼女らの置かれた「環境」はどうか。
前作は、第二次大戦アナロジーの総力戦において独立部隊をめぐる一側面に光があてられていた。
それに対し、本作は、中・小規模の局地戦が中心で、より複雑に複数のイデオロギー・派閥・財界(軍需産業)・個人の想い(憎しみ)が渦まいている。
この戦争・権力闘争・経済益(兵器開発)・心変わり(裏切り)に翻弄されながら「強く」なろうとする「個人」の貴い「生命」「人格」を、最期の“刻”まで“涙”して観てほしい。
| 【製作年】 2005年〔テレビ版1985年〕 【原作・脚本・総監督】 富野由悠季 【声の出演】 池田秀一、飛田展男、古谷徹ほか 【企画・製作】 サンライズ |
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