*

公開日: : シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (197)
映画『オフサイド・ガールズ』
(初出2007年9月10日掲載・H.T.さん記)
197オフサイド・ガールズ

イスラム教の戒律の厳しいイランの女性たちを描いて世界で話題のジャファル・パナヒ監督。1995年のデビュー作『白い風船』でカンヌ映画祭新人賞、00年の『チャドルと生きる』ではベネチア映画祭金獅子賞(グランプリ)を獲得しました。『チャドルと生きる』に登場する女性たちは重苦しいものでした。しかし、今回の『オフサイド・ガールズ』では、タブーに挑戦する少女たちの個性的で元気はつらつとした行動に、爽やかや明るさを感じます。この作品はベルリン映画祭銀熊賞を獲得し、これで世界三大映画祭で受賞したことになります。

06年、ドイツW杯への出場をかけたバーレーン戦が開かれるイランの首都・テヘランのアザディ・スタジアム。イスラムの戒律で、イラン女性は外出時にチャドルで頭髪や身体を覆うことを命じられているだけでなく、男性競技をスタジアムで観戦することもできません。女性が競技場に入ることは「オフサイド」(サッカーで、攻撃側がゴール近くでパスを行う際の反則)です。でも、どうしてももぐりこみたい少女たちがいました。

彼女たちは、野球帽、ジャンパーにズボン姿で男装し、ゲートを通り抜けようとします。しかし、警備の兵士たちに呼び止められ、試合の見えない仮設の檻に放り込まれます。次々と連行されてくる女性たち。やがてスタジアムから熱狂した観衆の声が届きます。「なぜ入れないの?見せてよ」。あきらめようとしない少女たちに、兵士たちもたじたじです。女性差別の不合理さを突くエネルギー溢れるシーンです。

厳しい検閲をくぐり抜けようとする監督の努力空しく、『チャドルと生きる』と同様、本作品もイラン国内では上映禁止になりました。イランはアメリカのブッシュ大統領によって、イラク、北朝鮮とともに、「悪の枢軸国」と指名された国です。イランに対する武力行使の検討も時おりニュースになりました。

しかし、長い間の慣習はそう簡単に変わるものではありません。どのような社会にするか―それはその国の民衆自らが決め、変えていくべきものです。本作品も、したたかなイラン市民の力を観せています。このような作品を制作し、国外で放映してもおとがめなしということの背景にはイラン社会の変化もあるのでしょう。ちなみに、9月5日付けの報道によれば、イランの最高指導者の任免権を持つ専門家会議の議長に、改革派・穏健派のラフサンジャニ師が選出されました。

この作品は、イラン社会の理不尽さを突き、自由や平等を獲得するための映画です。私はイランの少女たちやジャファル・パナヒ監督から勇気をもらいました。自由や平等は程度問題です。私たち日本も女性を差別していないか(例えば、生きていくうえで一番重要な労働現場を見ると、パート労働者の大半は女性であり、パート労働における差別は世界的に有名です)、「自由」社会のポイントである選挙運動の自由(参考:憲法MAP和歌山編)があるか(日本は先進国では例外的に極めて厳しい制限を課しています)、諸々の問題に対して憲法で謳っている「自由獲得のための不断の努力」(12条、97条)をどれほど行っているのか、一部の戦っている人々を放置していないか、改めて考えずにはいられません。

【映画情報】
製作:2006年 イラン
時間:92分
原題:OFFSIDE
監督:ジャファル・パナヒ
出演:シマ・モバラク・シャヒ/サファル・サマンダール/シャイヤステ・イラニ
後援:アムネスティ・インターナショナル日本

ad

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

関連記事

第39回「ジョン・ラーベ」20171210

ジョン・ラーベ

映画「ジョンラーベ」 【上映情報】 『ジョン・ラーベ 南京のシンドラー』(201

記事を読む

annai

戦争案内

明治以来日本が起こした戦争は、いったい誰がなぜ始めたのだろうか?アジア各国への長年の 取材と

記事を読む

第36回「『テロリストは誰?』3

テロリストは誰?

テロリストは誰? 映画『テロリストは誰?』 2004年 フランク・ドリル:編集 120分

記事を読む

edd40195e9ab10a9

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (116) 『NHKのチャップリン特集』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (116) 『NHKのチャップリン特集』 (初出2006年

記事を読む

143シリアナ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (143) 『シリアナ』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (143) 『シリアナ』 (初出2006年11月20日掲載

記事を読む

エマニュエルの贈りもの

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (189) 映画『エマニュエルの贈りもの』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (189) 映画『エマニュエルの贈りもの』 (初出2007

記事を読む

7サトウキビ畑の歌

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (7) 『サトウキビ畑の歌』(完全版) 2004年7月26日 H.T.記

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (7) 『サトウキビ畑の歌』(完全版) 2004年7月26

記事を読む

237映画『光州5・18』1

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (237) 映画『光州5・18』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (237) 映画『光州5・18』 (初出2008年5月26

記事を読む

0017110668LL

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (80) 「『戦艦ポチョムキン』80周年記念シネマ&トーク」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (80) 「『戦艦ポチョムキン』80周年記念シネマ&

記事を読む

doi

女性たちにとっての日本国憲法

ベアテ・シロタ・ゴードンと土井たか子が語る!日本国憲法の現在とこれから。 2000年12月

記事を読む

ad

ad


シリーズ戦争と女性
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (246) 「シリーズ戦争と女性」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (246) 「シリーズ戦争と女

現在映画評論
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (245) 書籍『現在映画評論』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (245) 書籍『現在映画評論

Matsukawa_Incident
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (244) テレビ『衝撃の昭和事件史 松川事件』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (244) テレビ『衝撃の昭和

『シリーズ激動の昭和 3月10日~東京大空襲 語られなかった33枚の写真』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (243) 東京大空襲のテレビドラマ2本

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (243) 東京大空襲のテレビ

映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止を考える
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (242) 映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止を考える

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (242) 映画「靖国 YAS

→もっと見る

PAGE TOP ↑