憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (179) 映画『明日、君がいない』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (179)
映画『明日、君がいない』
(初出2007年5月14日掲載・H.T.さん記)
青春時代は希望や夢に胸をときめかすものです。だからこそ、不安や孤独感も抱え、純粋な心情が絶望に変わった時は、ときとして死を選びます。
友人の自殺と自らの自殺未遂を経験した、19歳のインド系オーストラリア人の青年がいきなり自ら脚本を書き、監督し、等身大の高校生たちの心の奥底を鋭くえぐりだした話題の学園物語です。
冒頭シーン。鍵のかかった部屋のドアの下から流れ出す血。誰かが自殺したのです。誰が、なぜ? ドラマは最初からずっと緊張感に包まれます。
はぶりの良い弁護士を父に持つマーカスは、いい成績を取ることを自分に厳しく課しています。青春を楽しむ友人たちから孤立していますが、数年後にはエリートになって皆を見返してやる、と仲間たちや家族のことは眼中にありません。そんな彼にも大きな闇があります。その兄と比較され、自分らしい好きなことをしたくても親に反対されてさせてもらえない妹のメロディは、ある日妊娠に気付いて愕然とします。サッカー選手を夢み、学園のスターであるルークは、「誰にも明かせない秘密」を抱えて、マッチョを装っています。ルークの恋人のサラは卒業後の幸せな結婚だけを夢み、彼の浮気を心配し苦悩します。ゲイのショーンは、仲間からも家族からもばかにされています。尿道と足に障害のあるスティーブンは、皆にからかわれ、いじめられることに必死に耐えています。ケリーは、そんなスティーブンにそっとティッシュを渡す優しい女の子ですが、誰も彼女に無関心です。
この7人の誰が自殺したのか。誰もが、理由がありそうです。現代の大人の世界でも十分存在する7つの代表的なストレスのサンプルを提示した19歳の監督の力量には感服します。監督が自殺者として選んだ高校生は意外にも‥‥。その洞察力の深さに驚くとともに、同年齢の若者に対する並々ならぬ深い愛の眼差しを感じました。
この映画は結局何を訴えたかったのでしょうか? 自殺者が出てはじめて、周囲の人の苦悩に無頓着で自分のことしか考えられなかった自分に気付くのでは遅すぎるということでしょう。一人ひとりが「違っていていい」、その個性は絶対に「尊重される」べきだという強いメッセージも感じました(伊藤真「世界に一つだけの花」)。
シアターでは、さすがに20歳前後の若者が多数でした。若者が若者のために作った作品として、大きな共感を呼べるものになっています。同時に、高校時代が遠い昔になった方々にとっても、大変ショッキングでしょう。依然として同様のストレスを抱えている身として。高校時代の純粋さを忘れ、社会とはしょせんこんなものだとあきらめかけている自分に気付いて。そしてまた、ナイーブで傷つき易い若者を持つ親として。
【映画情報】
製作:2006年 オーストラリア
監督・脚本:ムラーリ・K・タルリ
時間:99分
出演:テレサ・パルマー/ ジョエル・マッケンジー/ クレメンティーヌ・メラー/チャールズ・ベアード/ サム・ハリス/ フランク・スウィート
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