憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (166) 『チョムスキーとメディア』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (166)
『チョムスキーとメディア』
(初出2007年3月5日掲載・H.Tさん)
民主主義国家では、メディアは表現の自由(21条1項)の一つとして特別な報道の自由を享受しています。報道の自由は、主権者である国民の知る権利(同項で保障)に奉仕し、民主主義社会にとっては不可欠な構成要素です。主権者はあくまで国民です。
しかし、実態はどうか。現代における最高の知識人の一人であり、世界の良心といわれるチョムスキー教授(マサチューセッツ工科大)は、講演やインタビューを記録したこの映画で、主客が逆転していると主張しています。すなわち、新聞やテレビというマスメディアは、政府や大企業が考えていることを一般国民に浸透させ、社会の支配層の利益のために国民の支持を取り付けるという機能を第一にしているではないかと。それゆえ、映画の副題は、「マニュファクチャリング・コンセプト」(「合意の捏造」)となっています。全体主義国家で暴力が果たす統制機能を、民主主義国家ではメディアが形を変えて果たしているという意見です。
「合意の捏造」の特徴は、政府による直接的な介入ではなく、マスメディア自身がニュースを選択し、形づくり、討論の範囲を決定することです。例として、(1)1970年代の東ティモールでの大虐殺です。石油資源等を狙ったアメリカがンドネシア軍に武器の90%を提供して援助し、20万人(現在の住民は約100万人)を虐殺あるいは餓死させたこのジェノサイドは、アメリカメディアでは意図的に黙殺されました。(2)カンボディアでも70年代に米軍の空爆等で60万人以上が殺されたりその影響で餓死しましたが無視され、すべてポルポトの責任として報道されました。
教授は、著書「マニュファクチャリング・コンセプト」(トランスビュー社、初版07年2月)の中で、生の事実を詳細に紹介し、それが寡占化されたマスメディアによって濾過され歪曲される過程を緻密に分析しています。資料として貴重な書籍です。
日本でも事情は同じです。例えば、自衛隊のイラク派遣は復興支援だけが盛んに繰り返し報道され、当初からのもう一つの任務であり現在も続いている航空自衛隊による武器を携行した米兵のイラク国内への空輸は、ほとんど知らされていません。最近ではNHKの「自主規制」も問題になりました。
教授が期待を寄せているのは、市民によるオールターナティブな情報発信です。市民出資のラジオ局、インターネット、非営利目的の放送局やTVネットワークなどが、活発化しています。
【映画情報】
製作:1992年 カナダ
原題:Manufacturing Consent :Noam Chomsky and the Media
製作・監督:ピーター・ウィントニック&マーク・アクバー
時間:167分
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