*

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (174) 映画「パラダイス・ナウ」

公開日: : 最終更新日:2026/04/24 シネマDE憲法, パレスチナ・イラク, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (174)
映画「パラダイス・ナウ」
(初出2007年4月9日掲載・H.T.さん記)

174パラダイス・ナウ

パレスチナのヨルダン川西岸地区に住む2人のパレスチナ人青年がイスラエルに対して自爆攻撃を試みるまでの2日間の葛藤と友情を描いた物語です。パレスチナ人の監督が、イスラエルに対する抵抗運動が最も激しいナブルスの町を中心に撮影しました。9.11以来、「自爆攻撃」というと、日本では当初から「自爆テロ」という否定的な表現が使われています。しかし、監督は、「自爆攻撃」を否定も肯定もしません。観る人の判断に委ねています。

パレスチナは長い間イスラム国家の支配下にありましたが、異教徒が弾圧されることも少なく、ユダヤ人とアラブ人の垣根なく、お互いを認め合いながら共存してきました。しかし第一次世界大戦後、イギリスとフランスによって細かく分割され、保護国の名のもとに植民地とされ、しばしば衝突が繰り返されてきました。

1948年にはイスラエルが建国され、この地に住む人口の3分の1のユダヤ人には2分の1の面積の土地が与えられました。イスラエルは、さらに、アラブ諸国との1967年の第3次中東戦争で圧勝し、ヨルダン川西岸地区等を占領して支配地域を拡大しました。国連安保理はイスラエルに対して、占領地からの撤退を求めました。しかし、イスラエルはこれに応じないのみならず、ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人の入植を増加させてきました。さらにパレスチナ人が居住する地域を取り囲むように壁(いわゆる「分離壁」)を構築し続けています。

国連は占領地から撤退しないイスラエルを非難する内容の決議案を出していますが、イスラエルと極めて関係が深いアメリカは拒否権を発動し、国連はほとんど機能していません。日本も消極的です。生活や安全が崩壊させられているにもかかわらず、世界から見放されたと感じているパレスチナの住民は絶望し、ごく普通の青年が変化を期待して自爆攻撃に走っています。イスラエルの人権団体「ベツェレム」のまとめによると、2006年中にイスラエル軍に殺害されたパレスチナ人は660人(未成年141人)、パレスチナ側に殺害されたイスラエル人は23人でした(06年12月31日付け毎日新聞)。

自爆攻撃は、しばしば、信仰による「聖戦」として固い決意のもとに実行されるようにステレオタイプ化されて報道されています。しかし、映画では、他人を殺し、自分も死ぬというこれ以上なく重い行為を実行するのは、宗教上の信念によるというよりも、自分の行為の外部の世界や人々に対する意味づけにあることを示唆しています。自爆攻撃を決心した2人の青年の心は揺れ動き、自分の行為に強い疑問も持ちます。ここには、私たちと同じように家族や恋人、地域の人々、さらには他民族をも思いやる普通の青年の極限的な苦悩が見られます。監督は語っています。「パレスチナ人を近い存在に感じていただければ嬉しいです。パレスチナの現状を知って欲しい。“知る”ことこそが暴力の連鎖をくい止めるのです」。

戦争や暴力による紛争の解決を否定する日本国憲法の理念を世界に広げていくことが、今日、この時間苦しんでいる世界の人々にとっていかに重要な意義を持つかということを再確認させられる映画です。題名は、パラダイスは死の瞬間にある、という意味からつけられました。「死」によってしか「パラダイス」を見ることができない人たちが世界には無数に存在しています。

【映画情報】
製作:2005年 フランス/ドイツ/オランダ/パレスチナ
監督:ハニ・アブ・アサド
原題 PARADISE NOW
時間:90分
出演:カイス・ネシフ /アリ・スリマン/ ルブナ・アザバル/ アメル・レヘル/ ヒアム・アッバス

ad

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

関連記事

6深呼吸の必要

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (6) 『深呼吸の必要』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (6) 『深呼吸の必要』 2004年7月23日 S.T.記

記事を読む

102スパイ・ゾルゲ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (102) 『スパイ・ゾルゲ』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (102) 『スパイ・ゾルゲ』 (初出2006年5月15日

記事を読む

硫黄島からの手紙

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (150) 『硫黄島からの手紙』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (150) 『硫黄島からの手紙』 (初出2006年12月2

記事を読む

265シロタ家の20世紀

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(265) 映画『シロタ家の20世紀』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(265) 映画『シロタ家の20世紀』 (初出2008年10

記事を読む

第66回「教育と愛国」 (2022年10月23日)入稿時オモテ

第66回憲法を考える映画の会『教育と愛国』上映会

第66回憲法を考える映画の会『教育と愛国』上映会 第66回 憲法を考え

記事を読む

父と暮らせば

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (8)『父と暮らせば』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (8) 『父と暮らせば』 2004年8月2日 H.T.記

記事を読む

「自主制作映画見本市6」20210923(9月1日)P1

自主制作上映映画見本市#6

自主制作上映映画見本市#6 【上映情報】 自主制作上映映画見本市#6 日時:

記事を読む

月光の夏

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (84) 『月光の夏』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (84) 『月光の夏』 (初出2006年1月16日掲載)

記事を読む

ロング・ウォーク・ホーム

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (10) 『ロング・ウォーク・ホーム』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (9) 『ロング・ウォーク・ホーム』 2004年8月12日

記事を読む

ルワンダの涙

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (159) 『ルワンダの涙』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (159) 『ルワンダの涙』 (初出2007年2月5日掲載

記事を読む

ad

ad


第90回「新・戦場の兵士」案内チラシ(2026年10月18日)20260916入稿時原稿オモテ
第90回 憲法を考える映画の会 『新・戦場の兵士』

第90回 憲法を考える映画の会 『新・戦場の兵士』 第9

戦場のレクイエム
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(285) 映画『戦場のレクイエム』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(285) 映画『戦場のレクイエ

242チェ 38歳別れの手紙
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(284) 映画『チェ 39歳別れの手紙』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(284) 映画『チェ 39歳別

283蟹工船
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(283) 映画『蟹工船』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(283) 映画『蟹工船』 (

282映画『そして、私たちは愛に帰る』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(282) 映画『そして、私たちは愛に帰る』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(282) 映画『そして、私たち

『ガイサンシーとその姉妹たち』『melos』の上映、上演を広げる会
公演「remembrance記録と記憶 ―中国と日本の表現者による未来への祈りの試み―」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(281) 公演「remembr

→もっと見る

PAGE TOP ↑