憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (159) 『ルワンダの涙』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (159)
『ルワンダの涙』
(初出2007年2月5日掲載・H.Tさん)

1994年の4月にアフリカ・ルワンダで起きた民族紛争を題材にした映画です。
映画『ホテル・ルワンダ』で描かれていたのとほとんど同じ時期に、首都キガリで発生した大虐殺事件がリアルに再現されています。
舞台はキガリにあるカトリック系の公立技術学校。イギリスから布教にやってきたクリストファー神父によって運営されるこの学校には、平和維持活動を行う、国連ルワンダ支援団が駐留していました。当時、人口の85%を占めるフツ族による少数派ツチ族への憎悪は頂点に達しようとしていました。飛行機に乗っていた大統領が撃墜され死亡したのをきっかけに、フツ族はツチ族に対して手当たり次第に大ナタを振り下ろし始めます。逃げ惑うツチ族は次々と学校へ避難し、その数は2.500人に達しました。フツ族もその動きを察知してナタを手にして大勢で学校を取り囲み気勢をあげます。神父は国連の支援団に避難民を守るよう必死で懇願します。しかし、支援団は介入が内政干渉に当たるとして拒み、やがて撤退命令を受け、避難民を残して学校から退去して行きます。
この事態に、熱心な英語教師として住民に親しまれていた青年・ジョーやBBC放送のスタッフ、信仰に生きる神父など、白人たちが苦悩のうちに選んだ道は‥‥。
虐殺にはフツ族過激派だけでなく、一般市民も加わっていました。犠牲者は翌95年までに約100万人に達したと言われています。
この大虐殺を国連をはじめ各国が放置したことは、国際社会にも大きな禍根を残しました。映画には象徴的なシーンがあります。BBCの記者は言います。「ボスニアでは女性の死体を見るたびに、これが自分の母親だったら、と思わずにはいられなかった。しかし、ここでは、こんなのただのアフリカ人の死体じゃないか」。白人対黒人の図式です。
ヨーロッパ各国はアフリカ各地を植民地化し、国家を分断していきました。ルワンダを植民地にしたベルギーは、民族認識カードの所持を義務付け、少数派のツチ族を優遇して分断統治してきました。これが民族対立の大きな原因になりました。しかし、大虐殺が始まると、ヨーロッパ各国はルワンダを見捨てました。資源が豊富であるなど、欧米諸国の利益になれば、積極的に「干渉・介入」しますが、ルワンダの場合は介入しても、もはや利益はなかったからです。今、スーダン西部のダルフール地方でも数十万の住民が虐殺され、同じようなことが起きています。
主権国家である他国の内部の大虐殺に、国際社会がどのように関わるかは、大変重く、難しい問題です。しかし、この場合であっても、生命や平和を守ることは高度に倫理的な要請ではないか、問われています。
「国際貢献」のために日本も憲法を改正して、堂々と海外派兵できるようにすべきだ、という意見が声高になってきています。
しかし、ここからが、考えどころです。今の改憲論が想定している「国際貢献」ないし「国際協力」は、日米の利益のための、軍事同盟による共同軍事行動が主眼です。「武力行使に積極的な立場の人々は、普通に持たれている人道的介入の問題を本当には考えてこなかった」「人道目的は添えものの正当化でしかない」と指摘されています(最上敏樹著「人道的介入」)。このことは、現に行っている自衛隊の海外活動を仔細に見ると実証されます。
人道支援のために,武力行使が必要となるのは、非常に例外的な事態です。日本は今の憲法のもとでも文民型国連機関への参加やNGOの積極的な派遣が可能です。平和のための国際救援隊、支援隊など、さまざまな形態の組織を作ることも提案されています。
しかし、日本は、これらの方法を追求することには非常に消極的で、「極めて例外的」である武力行使の道に熱心です。介入は他国との役割分担であることも軽視されています。
現在の世界は、「先進国のための介入」という構造です。9条を持つ日本は、これを「倫理的な要請」という人道支援の出発点に基づく構造に変える国際的な努力を、今すぐ必死で主導することが求められているのではないでしょうか。人道支援の勘所は「救済」であり、「暴力に対置される手段」をとることこそ、世界における非人道的なものを克服するための要諦であることが、歴史的事例の検証のうえに主張されています(同上書)
【映画情報】
制作:2005年 イギリス/ドイツ
監督:マイケル・ケイトン=ジョーンズ
原題:Shooting Dogs
時間:115分
主な出演者:ジョン・ハート/ ヒュー・ダンシー/ クレア=ホープ・アシティ/ ドミニク・ホルヴィッツ /ニコラ・ウォーカー
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