憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (130) 『出口のない海』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (130)
『出口のない海』
(初出2006年9月11日掲載・H.T.さん記)
アジア・太平洋戦争の時代の話です。
甲子園の優勝投手である主人公・並木(市川海老蔵)は、明治大学に入学後、肘の故障で速球が投げられなくなり、
“魔球”と名づけた変化球の修得に復活をかけていました。
しかし、戦争が進み、並木も愛する家族や恋人、友人を後に海軍に志願します。
そこには、ランナーとしてオリンピックを目指していた者など、
並木と同じようにそれまで希望に溢れた青春時代を過ごしていた若者たちがいました。
1944年夏、日本海軍は、戦況打開のために、“海の特攻隊”である“回天”を開発しました。
全長約15メートルで中央部の操縦室に一人で乗り、敵艦に体当たりして撃沈させる秘密兵器で、
今流にいえば、自爆攻撃でしょう。
並木たちは、人間魚雷といわれた“回天”の搭乗員になることを自ら選択します。
映画は、死を覚悟した若者たちの心情をていねいに描いています。
決して“潔い戦死”ではありません。
「自分は国家とか周囲の見えない大きな力に引きずられてきたのではないか。
勇敢な兵士として虚勢を張り自分を偽ってきたのではないか」と自問します。
そして、自分が死ぬことをどのように意味づけるか苦悶します。
口には出せません。
映画は、実際の戦争の過酷さ、哀れさを強く訴えています。
実際の特攻の生き残りの元兵士の方々の体験談に沿ったドラマだと思います。
並木を演じる市川海老蔵さんは語っています。
「セットに囲まれながら撮影しているうちに、不思議と今なら自分は特攻にいけるのではないか、
と感じてしまう瞬間があったんです。」(06年8月15日付け朝日新聞)。
他方で、特攻を“美しいもの”として賛美する映画が制作中であるという話も伝わってきます。
時代の空気はどちらに向かって動くのでしょうか。
戦争を経験しない私たちは、戦争による“死”というものを頭の中でしか考えられません。
この映画では、“引き返せない生”に直面した青年たちの等身大の姿に出会えることでしょう。
【映画情報】
制作:2006年 日本
時間:121分
監督:佐々部清
脚本:山田洋次、冨川元文
原作:横山秀夫「出口のない海」
主な出演者:市川海老蔵/塩谷瞬/上野樹里/香川照之/古手川祐子/三浦友和
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