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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (157) 『それでもボクはやっていない』

公開日: : 最終更新日:2026/03/19 シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (157)
『それでもボクはやっていない』
(初出2007年1月15日掲載・H.Tさん/H.Oさん記)
それでもボクはやっていない

今回は2人のご案内を掲載します。
H.T.記

周防正行監督による、「Shall we dance」以来11年ぶりの作品です。日本の刑事裁判の仕組みを端的に理解するのに絶好の作品だと思います。「日本の裁判とはこういうものですよ、ってことを間違いなく正確に伝えることに重点を置いた」という監督の強い使命感が結実しています。しかも、「エンターティンメントとして面白がらせようという意識は全くなくて、ただ事実を重ねることしか考えなかった」というスタンスにもかかわらず、エンターティンメントとしても十分に成功していると評されています。裁判官の顔が見え、キャラクターが分かる、という点でも他のテレビドラマや映画にはないものです。

26歳のフリーター・金子徹平(加瀬亮)は、就職活動で会社面接に向かう満員電車の中で、女子中学生に痴漢と間違えられます。話せばわかってもらえると思って、駅事務室に行きますが、そこでは何も聞かれずに簡単に警察官に引き渡されてしまいます。警察での取調べでも「やってない!」と無実を主張し、具体的な言い分を主張しますが、その調書も取ってもらえず、勾留されてしまいます。検事もまた、犯人だと決め付けた型どおりの取調べで起訴します。でも鉄平は、やってないのだから裁判官ならわかってくれる、と思って裁判に臨みます。さて、どんな裁判になるでしょうか…。
200回も裁判を傍聴するなど徹底した取材に基づく緻密な描写が展開されています。リアルさは、裁判の関係者も納得させると思います。

犯人でないのに犯人とされ、刑罰を受けることは国家権力による最大の人権侵害の一つです。そのため、憲法31条以下では、刑事裁判における適正な手続を保障しており、被告人は裁判所で有罪とされるまでは無罪と推定されることは、根底となる原理です。そこから、検察官は、合理的な疑いを入れない程度に有罪を立証しなければなりません。映画の冒頭に「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」」の字幕が出ます。しかし、裁判の実状は違います。特に、物証の乏しい痴漢事件のような場合は、被告人とされた側が自分の無罪を立証しないと、有罪とされ「冤罪」となる可能性が高くなっています。憲法から導かれる原則の逆転現象です。結果として、起訴された事件の99.9%が有罪になる日本の司法があります。

裁判を通して、徹平も新人弁護士 (瀬戸朝香)も成長します。すっくと立って判決文を読み上げる裁判官を見据える徹平。そこには、裁かれる被告人でなく、司法権を裁く主権者の姿があります。奥深い作品です。

映画のパンフレット(600円)にも、逮捕・留置場から判決に至るまでの流れが弁護士や監督によって詳細に解説されています。合わせて参照すると、「裁判そのものについての映画をつくった」という監督の意図がより理解でき、大変勉強になります。

H.O.記

ほとんどの人は自分が犯罪者になって裁かれるとは思っていないでしょう。しかし、誰もが、突然逮捕され、裁判にかけられ、有罪になる可能性があるのです。決して犯罪を犯していないのに有罪になる可能性があるのです。この映画は、ある青年が電車の中で痴漢と間違えられ、痴漢の被害を受けた女子中学生から訴えられるという「事件」がおこり、その「事件」が法廷でどのように裁かれたのか、という物語です。
この映画の主人公は決して痴漢行為を行っていません。しかし、逮捕され、起訴され、有罪となりました。冤罪なのに、いとも簡単に逮捕され、犯罪者になってしまったのです。映画は、今日の痴漢事件の捜査と裁判の姿をみごとに描いています。特に、警察の取調べ、被疑者の留置場での処遇、検察官の取調べなどのシーンはリアルで、鑑賞された方を驚かすことになるでしょう。
この映画は、冤罪が生まれる背景事情を抉り出している点でも優れています。弁護士や裁判官が被疑者・被告人となった人たちのことをどのように考え、どのように対応しているのか、その問題点とともに、彼らをとりまく事情も含めて炙り出しています。
また、この映画は、「疑わしきは罰せず」「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(むこ)を罰するなかれ」という刑事司法の原則の重要性を説き、かならずしもそうなっていない現状を痛烈に批判しています。「疑わしきは罰せず」「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(むこ)を罰するなかれ」という原則は、日本国憲法でも強調されている大原則です。犯罪は許されるものではありませんが、犯罪を犯したかどうかは適正な手続による裁判を通して確定されるのです。そこで、日本国憲法は被疑者・被告人の権利を具体的に定めているのです。それは「個人の尊重」という価値を最も大事にしている日本国憲法ならではのものです。しかし、現実の刑事司法はかならずしもそのようになっていません。その背景には、国民全体に被疑者・被告人の人権よりも治安強化を求める風潮があり、それが醸成されているという状況もあるのではないでしょうか。
2年後には裁判官制度が実施となります。誰もが裁判員として刑事事件の裁判に関わる可能性が生まれます。裁判とは何か、刑事裁判とは何かを多くの国民が突きつけられようとしている今、多くの人にこの映画を観てもらい、考えて欲しいと思います。おそらく観た人の多くが、いつ犯罪者にさせられるかわからない、“明日はわが身”と感じると思いますが、ぜひその人たちを語り合いたいと思いいます。ぜひ、「疑わしきは罰せず」「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜(むこ)を罰するなかれ」ということ、「個人の尊重」ということの意味を語り合いたいものです。憲法の考え方を広げるチャンスでもあるのではないでしょうか。
(2007年1月29日)

【映画情報】
制作:2006年 日本
監督:周防正行
時間:2時間23分
主な出演者:加瀬亮/瀬戸朝香/山本耕史/役所広司/もたいまさこ/田中哲司

 

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