憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(295) 映画『遭難フリーター』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(295)
映画『遭難フリーター』
(初出2009年4月6日掲載・K.T.さん 記)

仙台から上京し、埼玉県本庄市にあるキャノンの工場で働き始めた派遣社員の春・夏・秋・冬。本作で監督デビューした岩淵弘樹さんが、ハケン・フリーターである自らの生活をビデオカメラで撮り続けたドキュメンタリーです。映し出されるのは、そのまま、今の日本社会でフリーターが目にしている現実そのもの。
毎朝6時過ぎに目を覚まし、寝癖のついた髪と寝ぼけ眼の彼が、“朝メシをかき込む。”住処と同じく、派遣会社からの借り物の自転車で出勤。一日、プリンターのインクのフタの取付作業。社内でゴミ箱ひとつ使わせてもらえないハケンの時給は、1,250円、ボーナスなし。月の手取りは12万円に届くかどうか。そこから奨学金と借金の返済で6万円程を払うと、日々の所持金は数百円からせいぜい2、3千円。
延々と繰り返される、単調であると同時に心身ともにきつい毎日。画像に重ねられる彼の語り、つぶやきは「出口が見えない。出口はあるのか」
本作の“出演者”は、実は彼だけではありません。同じく派遣で働く工場の同僚、大手企業に勤めるかつての同窓生、居酒屋で彼にからむ“おっちゃん”、そして、非正規雇用労働者の権利を求めるデモの参加者たち。岩淵青年は、彼らの姿を捉え、彼らの声を聴きます。ビデオカメラが回っていることは、被写体たる彼らも承知しているはずですが、ニュース番組などでレポーターがマイクを向ける街頭の市民のどこか構えたような答え方と違って、実にリラックスして、自らの本音をある意味では“油断して”語っているところが面白い。
“油断”の最たる証となったのは、取材する側が、いつの間にか取材される側になってしまったNHK番組のディレクターかもしれません。思えば、本作が撮られた2006年は、ハケンなどの非正規雇用にマスコミの注目が集まりだした年でもありました(書籍『貧困報道』などをご参照下さい)。岩淵青年は、関西テレビやNHKからの取材を受けるのですが、その最中にも彼のビデオカメラが回っています。
前述のディレクターは、岩淵青年から自分の仕事について問われるままに、思わず仕事の“やりがい”と“やりきれなさ”の矛盾を語ってしまうのです。
これらの情景から見えてくるのは、ハケンであれ大手の正社員であれ、閉塞感を抱えている――具体的な内容は異なっても――点では同じ、ということではないでしょうか。そのことに、当の岩淵青年が気づいていようがいまいが。
たびたび言及されるのは、「せめて必要最低限の」「別に“上”を目指しているわけではない」「10年後の自分を想像できるか」。子どもを生み育てる、普通に働いて、人として当たり前の暮らしをしたい、求められているのは、憲法25条、27条、そして13条の理念が実現される社会です。
映画ラスト近く、仕事を終えた岩淵青年は、泊まる場所も金もなく、雨が路面をたたきつける深夜の東京をひたすら歩き続けて、杉並から世田谷へ、平和島を過ぎて東京湾へとたどり着きます。そこでの独白が、印象的です。「東京の果て。いまやっと入り口についた」。“出口”を探し続けてきた彼が見出したのは、世間や社会と向き合う“入り口”でした。
尚、本作配給会社バイオタイドが発行編集する本作のパンフレットには、当サイトの「今週の一言」で「今こそ『労働権』の活用を」と語っていただいた今野晴貴さんが代表を務めるNPO法人POSSEの総合誌『POSSE』から“「ハケン=ピンはね」ニッポン―法整備と規制緩和の歴史”という論稿が引用されています。
映画情報
製作:2007年 日本
監督:岩淵弘樹/プロデューサー:土屋豊/アドバイザー:雨宮処凛
時間:67分
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