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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(278) 映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

公開日: : シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(278)
映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』
(初出2008年12月22日掲載・蓼沼紘明 記)

チェチェンへ アレクサンドラの旅

1994年に始まったチェチェン戦争に関して、米欧や日本などでは、「民族の独立」を認めないロシアに対する批判的な報道が目立ちました。しかし、アメリカで起きた「9,11事件」以後は、対テロ戦争の枠組の中で見られるようになり、西側諸国はロシアの戦争を黙認ないし肯定するようになりました。「コーカサスの抑圧されている少数民族」の視点から「分離主義のテロリスト」の視点へと180度の転換です。

この映画は、今なお混乱が深刻化しているチェチェン共和国の首都グロズヌイにあるロシア軍の駐屯地とその付近をオールロケして制作されました。
荒涼とした山地をゴトゴトと走る列車から、80歳になるロシア人女性アレクサンドラが降り立ちます。駐屯地に将校(大尉)として勤務している孫のデニス(27歳)に7年ぶりに会うために。ロシアでは家族、特に母親が駐屯地を訪れることはよくあるとのことですが、長い戦争で今はそのような光景は珍しくなったようです。彼女は、兵士たちと同じ粗末なテントの一室に泊まり、デニスや兵士たちの殺風景な生活を体験する中で、兵士たちと親しくなってゆきます。戦闘場面はあえて避け、夜景の赤い炎などによってすぐ外が戦場である気配を十分に感じさせます。明日の生命は分らない毎日。

監督は、男ばかりの兵士たちの集団の中に老婆一人を大胆にも放り込む構図を作り出しました。「みんな幼いのね。子供みたい」とアレクサンドラ。この老女役は、ロシアのオペラ界きってのソプラノ歌手として著名だったガリーナ・ヴィシネフスカヤが大変見事に演じています。22年間、ボリショイ劇場のソリストとして活躍しました。堂々たる体躯と悠然とした動作は、まさに母なるロシアの大地というイメージですが、兵士に近すぎる母親ではなく、祖母として設定したことによって、兵士たちを距離を置いて観察することに成功していると思います。

兵士たちの生活や戦場に出発する姿を見ていたアレクサンドラが発する言葉は、「ああ聖母さま。穢れた彼らを救い護りたまえ」。デニスには「男には重要な仕事ではない」「あなたのお祖父さんは強い人を愛さなかった」。

アレクサンドラは、駐屯地のすぐ隣にあるチェチェン人たちが広げている市場に買い物に出かけて、チェチェンの女たちとすぐ親しくなります。「男同士は敵同士になるかもしれない。でも私たちは初めから姉妹よ」。チェチェンの若者がぼくとつに話すセリフや別れ際にチェチェンの女性の視線が示す胸の内は何でしょうか。ご自身で確かめてください。

アレクサンドラは人生経験を積んだ知恵の象徴のように見えます。彼女の眼からみると、戦争は未熟で異常な行動、そして家族の一員から消去されていく孤独な営みに映ります。あるとき、アレクサンドラは、一人の若者に言います。「日本のある老女は最も重要なのは理性だと言いました。武器や暴力に真の力はありません」と。ソクーロフ監督は、日本の憲法のことを語っているのでしょうか。だとしたら、アレクサンドラの経験的理性を、人類の理性に発展させているように聞こえます。

【映画情報】
【製作】:2007年 ロシア/フランス
【時間】:92分
【原題】:ALEXANDRA
【監督・脚本】アレクサンドル・ソクーロフ
【主演】:ガリーナ・ヴィシネフスカヤ
【問合せ先】パンドラ tel 03-3555-3987

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