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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(263) 映画『わが教え子、ヒトラー』

公開日: : シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(263)
映画『わが教え子、ヒトラー』
(初出2008年9月29日掲載・蓼沼紘明 記)

263わが教え子、ヒトラー

近年、劇場型政治家が目立ちます。言葉や話し方は政治家にとって重要な技術であり命です。
ましてや、無名からのし上り自称第三帝国を築き上げたヒトラーにとって、ドイツ国民を戦争にかり立てるうえで、熱狂的な演説は格別の武器でした。

ナチズムないしヒトラーの残酷さを描いた映画は数え切れませんが、本作品は、ヒトラーの内面に焦点を当てることによって、独裁者の精神の空虚さと、それゆえにこそ大衆を「喝采」によってしか支配しえないシステムを見事に暴露している点で貴重です。ファシズムの国家に限らず、政治の手法はファッショ的な民主主義の国家にも当てはまるものを感じさせます。

1994年12月25日。空爆されあちこちに残骸をさらすビルも目立つようになったベルリン。連合軍に追い詰められたドイツの宣伝相ゲッベルスは、国民の士気高揚のための起死回生の策として7日後の1月1日にヒトラー(ヘルゲ・シュナイダー)の大演説会を行うことを企画します。100万人を集め、15台のカメラで全国に実況中継するという大がかりなものです。
しかし、肝心のヒトラーは戦局不振から意気消沈し、うつ状態に陥り、演説どころではありません。そこでゲッベルスは思い切って、かつてヒトラーの演説指導者だった元俳優のユダヤ人教授、アドルフ・グリュンバウム(ウルリッヒ・ミューエ)をザクセンハウゼン収容所から強制的に呼び寄せます。民族の敵に協力することになる教授は悩みに悩みます。そこで教授が出した条件はなんと…。
教授が見た独裁者は、劣等感に苛まれた孤独で気弱な暴君。初めは教授を拒否します。しかし、巧みな指導によって次第に打ち解けてゆき元気を取り戻し、張りのある声も出るようになります。
映画は、実話をヒントにしたフィクションです。声が良くなく、滑らかな演説も不得意だったヒトラーは、ポール・デヴリェというオペラ歌手から何年にも渡って演説技術を学んでいました。デヴリェは回想記も出しています。ヒトラーに精神的なダメージがあったことも判明しています。監督は、この指南役をユダヤ人に変え、戦争末期を迎えた第三帝国の狂騒的なブラックユーモア劇に仕立て直しました。哀れさと風刺に満ちた喜劇的な手法を用いることで、独裁者を突き話して冷静に見させることに成功していると思います。観客席のあちこちから苦笑と失笑が漏れます。「僕らが作ろうとしているのは、本当らしく見えることだ」というゲッペルスの信念を逆手に取っています。
身近にいるような気の弱い人間と社会があのようなだいそれた悲劇を起こしたのはどうしてなのだろう?現代への教訓に満ちた作品です。「善き人のためのソナタ」で名演技をし、この映画でも知性と豊かな愛憎表現がまぶたに焼きつくウルリッヒ・ミューエは、本作品が遺作になりました。
【映画情報】
製作:2007年 ドイツ
時間:95分
原題:MEIN FUHRER – DIE WIRKLICH WAHRSTE WAHRHEIT UBER ADOLF HITLER
監督:ダニー・レヴィ
出演:ウルリッヒ・ミューエ/ヘルゲ・シュナイダー/ジルヴェスター・グロート/アドリアーナ・アルタラス/シュテファン・クルト/ウルリッヒ・ネーテン

 

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