憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (147) 『麦の穂をゆらす風』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (147)
『麦の穂をゆらす風』
(初出2006年11月27日掲載・H.T.さん記)
先週紹介した映画「明日へのチケット」でローマに移住するアルバニアの家族を描いた、「英国の良心」ケン・ローチ監督による作品です。
今年のカンヌ映画祭で最高賞を獲得しました。立て続けのヒットです。
イギリスがアイルランドの独立を承認したのはそんな昔のことではありません。
1938年です。それまで約700年に渡ってイギリスの支配下にあり、苦難の歴史が続いていました。
この映画は、1920年当時、独立のためにアイルランドの義勇軍に身を投じてイギリスと戦った若者たちの苦悩を描いたものです。
「人権」とか「民主主義」とかは、その先進国イギリスにとっても国内だけのものであり、親しい隣国であっても、反抗すれば死をもって報いるという現実が如実に分かります。
医者の卵であるデミアンは、腕を磨くためロンドンの大病院に向けて出発しようとしていました。
しかし、目の前に展開するイギリス軍の暴虐に背を向けることができなくなります。
デミアンは兄テディとともに義勇軍に身を投じます。
激しくなる戦闘の中で、拷問を受ける兄、家を焼かれ、暴力を奮われる恋人…。
やがて義勇軍の頑強な抵抗に屈したイギリスは、停戦を申し入れ、「アイルランド自由国」を認めます。
しかし、アイルランドは依然英連邦自治領に留まりイギリス国王に忠誠を誓わなければならず、経済的には従属したままでした。
デミアンは自問します。“そもそも何のために戦ったのか。
イギリスに虐げられた貧しい人々を解放し、人間らしい生活を取り戻すためではなかったか?
”デミアンは完全独立を求め、イギリスとの妥協派に加わった兄たちと内戦状態になります。そしてデミアンは兄たちに捕われ、銃殺されます。
映画は、デミアンを賞賛してはいません。
戦いで人一人を殺さなければならないことにも苦悶する誠実な青年をありのままに描写しています。
銃殺される姿もかっこいいものではありません。あえぎが画面を支配します。
残された恋人にとっても、その後の人生は終わったようなものです。
映画の栞で、鳥越俊太郎さんが書いています。
「たとえそれがどんなに立派な大義名分であろうとも、暴力(武力行使)の陰には必ず悲劇が生まれる。そんな思いがずっしりと胸に残る」
人類は、このような無数の人々の血と慟哭のうえに、“戦争違法化”さらにはそれを発展させた日本国憲法9条を獲得しました。
この宝物を決して手放してはならない、ということを痛切に訴える映画だと思います。
今デミアンが生きていれば、必死になって9条を世界に訴えている気がしてなりません。
製作:2006年 アイルランド/イギリス/イタリア/ドイツ/スペイン
時間:126分
原題:THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY
監督:ケン・ローチ
主な出演者:キリアン・マーフィー/ポーリック・デラニー/リーアム・カニンガム
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