憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (220) 映画『迷子の警察音楽隊 』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (220)
映画『迷子の警察音楽隊 』
(初出2008年1月21日掲載・蓼沼紘明記)

1990年代のイスラエル。文化交流のため、エジプトのアレキサンドリア警察音楽隊のメンバー8人が空港に降り立ちます。エジプトとイスラエルといえば、何度も中東戦争を戦いました。出迎えがなかったため、誇り高い団長サーベイらは自力で目的地にたどり着こうとしますが、間違えて名前が良く似た街に行ってしまいます。そこはホテルは一軒もない辺境の町。途方にくれる一行。宗教も人種も言葉も違い、”仲の悪い国”同士のこと、どうなるのか、心配になります。
しかし、とある食堂の女主人ディナの計らいで、3組に分かれ、食堂やディナの家に分宿して一夜を過ごすことになります。お互いに母国語でない英語で交わされる会話はぎこちなく、なかなかうまくコミュニケーションがとれません。それでも音楽や赤ん坊の寝顔などをきっかけに親しみが生まれてゆくほのぼのとした雰囲気が漂います。
映画には政治的な場面はありません。国家も出てきません。ただ、普通の市民がたまたま一緒に一晩過ごすだけ。だからいいのかもしれません。映画の冒頭で「かつて小さなエジプトの警察音楽隊がイスラエルに舞い降りた。それはたいしたことではないのだから」というセリフが出てきます。この”たいしたことではない”ことの積み重ねこそが大事なのだ、同じ人間同士、民族や宗教、歴史を超えてつながれるはずだ、ということを映画は伝えたかったようです。
一晩明け、音楽隊は目的地に旅立ちます。言葉少なく見つめあうディナと隊長サーベイ。サーベイは小さく手を振ります。音楽隊とイスラエルの住民たちの間の友好関係の発展が展望できそう、などという大げさなラストではありません。”冷たい平和”という両国の関係そのままですが、中東地域の全体に一日も早く共存と真の平和が訪れることを願わずにはいられません。
カンヌ映画祭「ある視点」部門で”一目惚れ”賞を、昨年の東京国際映画祭で最優秀のサクラグランプリを受賞しました。
【映画情報】
製作:2007年 イスラエル/フランス
監督:エラン・コリリン
原題:Bikur Ha-Tizmoret
時間:87分
出演:サッソン・ガーベイ/ ロニ・エルカベッツ/ サレー・バクリ/ カリファ・ナトゥール/イマド・ジャバリン
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