憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (23) 『ピエロの赤い鼻』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (23)
『ピエロの赤い鼻』
(初出2004年10月11日掲載 Y.M.記)
「笑いは最強の武器だ」
少し昔の物語。フランスの片田舎の小学校教師のジャックは毎週日曜日になると赤い鼻を付けたピエロを演じて皆を笑わせている。しかし多感な年頃の息子のリュシアンはそれが嫌でたまらない。
ジャックの親友アンドレはリュシアンに第二次世界大戦時ドイツ占領下の哀しくも愛に溢れた話を話して聞かせる。
にわかレジスタンス運動に身を投じたジャックとアンドレたちはドイツ軍の捕虜となる。彼らは「穴」に閉じ込められて死の恐怖に怯える。
そんな時“彼”が現れた。彼は赤い鼻を身に付け、道化を演じ始める。
彼は彼らに語りかける。「生きている限り希望がある」、と。“彼”は敵であるドイツ兵であった・・・。
終戦前夜という混乱した時期を、笑いという間接的な方法で、よりシンプルに、人間味豊かに描いている。
ピエロであるこの兵士は、芸術、夢と笑いの持つ力強さによって、戦争という現実から引き離し、人質たちが抱える死の恐怖を紛らわせる。
主題歌はシャルル・トレネの名曲「よろこびの歌」“Y’a de la joie”。日本語で言うと「幸せはどこにでもある」とでもいうところだろうか。
「笑いは最強の武器だ」
父はどんな気持ちで道化を演じていたのだろう。
権力に迎合しなかったドイツ兵のヒューマニズムは、今の時代に失われつつある“人間の気高さ”である。
この映画のエピソードで出てくる「穴」は監督のジャック・ベッケルが、同じく映画監督である父、ジャック・ベッケルの往年の名作「穴」に捧げたオマージュでもある。
また、製作はジャン・ベッケルの愛息ルイ・ベッケル。そして、父の仮装はピエロを演じたドイツ兵へのオマージュだろう。
大きな英雄はいないが小さなヒロイズムのハーモニー。普通の人々の戦争物語。庶民が示したささやかな勇気。
名もない英雄たちは知られることもなく歴史に埋もれていってしまう。道化を演じるジャックは名もない英雄たちの遺志を継ぐ行為でもあるのだ。
いつの時代にも永遠に存在しているはずの(失われつつある)父と子の、人間と人間の物語を終戦前夜のエピソードと相まって笑いとドラマの間を行き交いつつ描く、人間賛歌のフィルムである。
【原題】Effroyables jardins
【製作】2003年 フランス
【監督】ジャン・ベッケル
【原作】ミッシェル・カン
【出演】ジャック・ヴィユレ/アンドレ・デリュソリエ/ティエリー・レルミット/ブノワ・マジメル
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