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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (22) 『モンスター』

公開日: : 最終更新日:2025/09/24 シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (22)
『モンスター』
(初出2004年10月11日掲載 H.T.記)

22モンスター2

実在した女性の連続殺人犯アイリーン・ウォーノスをモデルにした映画である。
娼婦である彼女は、1989年から1990年にかけてアメリカ・フロリダ州で7人の男性(彼女を買った客)を次々に殺害し、死刑判決を受け12年間服役した後、2002年10月9日に処刑された。
当時マスコミは、「凶悪殺人鬼」という意味で彼女を「モンスター」と喧伝した。
しかし、この映画はアイリーンを「向こう側」の人間として突き放してはいない。
犯罪のきっかけとなった恋人との愛を描く中で、その生立ちや生活環境に迫り、彼女の行動の軌跡を客観視し緻密に追うことによって、家族、愛、教育、社会、宗教、政治、犯罪、死刑制度などさまざまなことを考えさせ、彼女も自分たちと「同じ人間」なのだということを訴えているようにみえる。

映画は、アイリーンが獄中で幼なじみの親友と交わした7000通の手紙をはじめ膨大なリサーチを経て制作された。
映画ではアイリーンの実像と「何が彼女をそうさせたか?」という疑問が追求されている。

映画の中のアイリーンは次のとおりである。
8歳の時以来、父親の親友にレイプされ続ける。父親に言ったがとりあってもらえない。
父親は彼女が13歳の時自殺。同時に彼女は、「薄汚い娼婦は出て行け!」と家から追い出され、生きるために娼婦として街に立って生活する。
「私はダイヤの原石だ。いつかはスターになる夢が適う」と長い間心から信じていた彼女だったが、30歳を過ぎたある日、現実に目覚める。
「男には愛想がつきた。だからもう死ぬだけ」。
自殺を考えていたある夜、偶然年下の女性セルビーに出会う。
アイリーンはそれまで「売女」とののしられ「人間」として扱われてこなかった。
セルビーは、そんなアイリーンを一人の人間として認めて愛してくれた最初の人だった。
ここでは男か女かは重要ではない。「あなたが私のすべてだ。もう最高だ」とアイリーンもセルビーを受け入れる。
「もう客をとるのはやめる。最低の仕事だ」と考えるアイリーンは、ひたすら自分を頼ってくるセルビーとの当面の生活を支えるため、これが最後と決めて街娼に立つ。
ところが、相手の性的虐待で殺されそうになり、正当防衛で反撃してその男を殺してしまう。

そしてアイリーンは、堅気の仕事を探し回る。
「人生で大事なのは人と自分を信じること。そうすれば夢も適う」というのが彼女の好きな言葉だ。
しかしやはり現実は甘くない。娼婦だったということで冷たくあしらわれる。
セルビーとのその日の生活を支えるためには娼婦の仕事に戻るしかないとあきらめ、再び客をとる。その男が変態。
体に染み付き鬱積した嫌悪感を抑えきれない彼女は、男を殺す。
一度否定した自分を自己の奥深い声がもう一度否定したともみえる。
「人生は不思議だ。思ってもいない方向に進んでいく」。
しかし、これはアクティブな犯罪であり、その後彼女はセルビーとの「車や家のある普通の生活」を作る手段として2人の男を強殺する。

「人は誰でも娼婦を見下ろす。私らのような存在は虐げられる存在だ」とアイリーン。
しかし、事実上社会に必要とされてきた。男のための手段として(慰安婦問題などが想起される)。
今度はアイリーンが、自分たちの愛のある生活のために、男の財産(車や現金)さらには生命まで手段と化してしまったようである。

やがてアイリーンは逮捕される。
しかし殺人の証拠がない。勾留されている監獄にセルビーから電話がかかってくる。
それが彼女の自白を引き出すための囮の電話であることにうすうす気付きつつも、セルビーへの愛を貫くために、セルビーの犯罪行為(贓物収受)まで否定する会話に応じるアイリーン。
そしてセルビーは法廷でアイリーンの犯行を証言する。
愛と財産と聖書のある普通の家庭に育ったセルビーに対して、「あなたにとって人間は善良で親切な存在なのね」とその生活を守ろうとしてきたアイリーンは、法廷でも「あなたを永遠に忘れない」と心で叫びセルビーを見やる。

しかしアイリーンは、社会は許せない。
死刑の宣告に対して、「レイプされた女を死刑に(するのかよ)!」。
「信仰は山をも動かす」(聖書の言葉)という言葉に対して、「勝手にほざけよ」とアイリーンのモノローグ。

彼女にとって「モンスター」は、子供の頃見た町の巨大な観覧車だった。
いつかそれに乗れる楽しい生活をするのが夢だった。
性的虐待を受け健全な自立心を育むことが困難だった子供時代。
「自由競争」と「自己責任」が強調され、増大する一方のホワイト・トラッシュ(白人の屑)の中でも最底辺に生きてきたアイリーン。
そんな彼女の唯一の理解者であるベトナム帰還兵の老人トムのセリフに、アイリーンが娼婦として生きたことについて「他に選択肢はなかった」とかばうものがある。
映画の監督、制作者はそこまで言い切って弁護はしていない。
しかしこの映画は、現実問題として社会に存在する彼女のような層の人生の悲劇を直視している。
そして、刑罰をもって市民社会を防御して事足れりとする諸々の社会的装置の全体も人間を押しつぶす「モンスター」であると、この映画は言っているような気がする。監督は本作が長編デビュー作となる女性のパティ・ジェンキンス。今後の作品が注目される。

その他現代のいろいろな問題を考えさせられる映画である。
たとえば前述した老人トムは言う。「おれたちも戦場でたくさん人を殺した。これも罪だ。罪にさいなまれ自ら命を絶った者も多い」。戦場での行為も犯罪行為という次元でとらえている。

ジェンキンス監督が実際のアイリーンと親しくなった矢先、アイリーンの死刑執行が決まったという。
かの女を「モンスター」と煽るマスコミに目をつけたブッシュ大統領の弟のフロリダ州知事の再選のために利用されたのだと、チラシにある。

生立ちを異にするアイリーンとセルビーの日ごとに変わる心理的な接近と乖離のダイナミックにして細やかなやりとりも見ものである。
「世界の美女」シャリーズ・セロンがアイリーンを演じるために13キロも太り鮮やかに変身し、迫真の演技でアカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得した映画としても話題になっている。

【原題】MONSTER
【制作】2003年 アメリカ
【監督・脚本】パティ・ジェンキンス
【プロデューサー】シャリーズ・セロン他
【出演】シャリーズ・セロン クリスティーナ・リッチ ブルース・ダーン・トーマス

 

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