憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (26) 『やさしい嘘』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (26)
『やさしい嘘』
(初出2004年11月8日掲載 Y.M.さん記)
元ソ連邦に属した小国グルジアの祖母・娘・孫娘三代の話。
グルジアの歴史とは侵略を受け続けた歴史である。
多くの国々に併合され、分割されてきた。
1991年、ソ連から独立をする。
2003年には時のシュワルナゼ大統領が解任され、社会的な混乱も脱していない。
貧しく、シャワーはすぐに止まり、電気さえしばしば消える。
スターリンはこの国の出身である。
祖母エカにとってスターリンはヒーロー。
娘はこの国を悪くした元凶であると言う。
孫娘は昔のことには無関心でスターリンのことも知らない。
この一家の憧れの「富」の象徴として「パリ」が登場する。
祖母エカの溺愛する息子のオタールはパリでは労働ビザさえ取れず、もぐりの肉体労働者として働いている。
しかし、グルジアでの彼の身分は「医者」。ここに厳しい現実がある。
孫娘もまた「パリ」に憧れを抱き、フランス語の勉強をしている。
エカの一番の楽しみは愛する息子オタールのパリからの手紙。
そして娘は兄オタールばかりを溺愛するエカに複雑な思いを抱いている。
ある日、オタールの急な訃報が入るが、娘と孫娘はエカにこの真実を知らせることが出来ない。
あの手この手で真実を隠し、「やさしい嘘」を貫き通す二人が書く、偽のオタールからの手紙を不審に思った祖母は、自宅の大切なフランス語の蔵書を全て売り払って、パリ行きのチケットに換える。
そこで真実を知らされた祖母の取った行動もまた2人へ、そしてオタールへの「やさしい嘘」であった。
エンディングの孫娘の決心、成長と自立への旅立ちにまた、爽やかな感動を覚える。
祖母・娘・孫娘の3人は、グルジアの人々の歴史の象徴として描かれているのだろう。
【原題】Depuis qu’Otar est parti・・・
【制作】2003年 フランス・ベルギー合作
【監督】ジュリー・ベルトリチェリ
【出演】エステール・ゴランタン ニノ・ホマスリゼ ディナーラ・ドルカーロワ
ad
関連記事
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (34) 『山の郵便配達』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (34) 『山の郵便配達』 (初出2004年12月27日掲
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (9) 『灰とダイヤモンド』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (9) 『灰とダイヤモンド』 2004年8月9日 H.T.
-
-
女性たちにとっての日本国憲法
ベアテ・シロタ・ゴードンと土井たか子が語る!日本国憲法の現在とこれから。 2000年12月
-
-
ひろしま 石内都・遺されたものたち
広島の原爆犠牲者の遺品を撮りつづけている女性写真家・石内都のドキュメンタリー。07年に初めて広島を
-
-
第18回憲法を考える映画の会のご案内
第18回憲法を考える映画の会のご案内 第18回「憲法を考える映画の会」 日時:6月13日(土)1
-
-
靖国 YASUKUNI
脅迫、抗議などを怖れ、上映前から大きな話題を呼び、上映が決まってからも、急遽上映を取りやめる
-
-
アメリカばんざい Crazy as usual
アメリカばんざい Crazy as usual 格差社会の底辺から、戦場へと押し出されてゆくアメリ
-
-
グラニート 独裁者に爪をかけろ
グラニート 独裁者に爪をかけろ 監督:パメラ・ウェイツ 2010年制作・アメリカ・スペイン・
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (57) 『時代(とき)を撃て・多喜二』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (57) 『記録映画「時代(とき)を撃て・多喜二」』 (初

