憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(277) 映画『いのちの作法―沢内「生命行政」を継ぐ者たち―』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(277)
映画『いのちの作法―沢内「生命行政」を継ぐ者たち―』
(初出2008年12月15日掲載・蓼沼紘明 記)
今の時代、どこを向いても閉塞感が充満しています。どうしたら時代を切り開けるのでしょうか。
この映画は、人間を限りなく信じ、愛する生活を自然体で実践している人々の営みを紹介している記録映画です。人間の「品格」とはこういうものなのか―揺るぎない希望が伝わってきます。
山形県沿いに細長く伸びる岩手県の西和賀町。旧沢内村が合併してできた町です。かつては、豪雪と多病多死、貧困の3重苦で、住民たちはあきらめと耐え忍ぶ生活を強いられてきました。
しかし、1957年、深沢晟雄村長(1905~1965)の登場とともに、村は新しい歴史を刻み始めました。1945年、厚い信頼を得て中国の炭坑できちんと敗戦処理を行った深沢氏は郷里の沢内村に帰ってきました。農民学校を行いながら「友情」という言葉に共鳴します。「友情」とは、全ての生命は森羅万象、あらゆる生命に支えられて存在しているという考え方です。そこから、全ての生命の尊重の理念を導き出し、「住民の生命を守るために、私は自分の生命をかけよう」と決心します。1961年には日本で初めて乳児・老人医療費の無料化を決断しました。国の法律に上乗せした制度は法律違反だと追及されますが、憲法25条の生存権の理念に合致するとの考えで施策を進めます。憲法学では著名な論点です。その結果、翌年の62年には日本初の乳児死亡率ゼロを達成しました。村長が生まれた全ての赤ん坊の名前を把握し、声をかける姿に村民は発奮しました。「やればできるんだ」。
![]() 宣承さんとキノさん |
今、町では深沢元村長とその時代の住民の志を受け継いだ住民たちが、時代の新しい課題にさまざまな創意工夫を重ねて挑んでいます。映画では、老人、障害者、児童養護施設の子供たちなどと住民の触れ合いの場面がたくさん出てきます。例えば、知的障害者は積極的に授産施設に集まってそれぞれができる範囲で仲間とともに「ふるさと宅急便」などの仕事をし、あるいは休耕田を借りて自給自足のための米作りにいそしんでいます。単なる保護でも、仕事の強制でもなく、一人ひとりが力を合わせてできることを行い、その表情は参加する喜びと明るさに溢れ、穏やかです。支援する方々も生き生きとしています。「人は他人(ひと)の痛みを知らないと人になれない」という言葉が印象に残ります。
住民たちは、相互の「結(ゆい)」の精神=「助け合いの心」を自覚的に追求しています。
そしてこの精神を町の外の人たちへと広げています。自分自身や自分たちの共同体の枠を越えて視線は日本の現状を見つめています。例えば、盛岡市の児童擁護施設からは、親から虐待され傷ついた子供たちをホームステイとして受け入れ家庭の愛情をまるごと注ぎます。さらには首都圏の施設で暮らす同じような環境にある子供たちを呼んで豊かな自然の中で素朴な村の人たちとの交流を推進しています。やってきた子供たちは、帰路につくときは表情がぐっと豊かになっています。ここでも甘やかしはありません。「ありがとう」と「ごめんなさい」を言うことをきちんとしつけます。一人ひとりがかけがえのない人間として持っている豊かな感性や可能性が引き出されて行きます。「ここは都会と違って何もないが、人間として大事なことがいっぱいある」。住民の一人ひとりが自信を持っています。
でも謙虚です。若者たちは寺子屋で学びます。「自分の実力はたいしたことはないから、助け合いながらやっている。だからすごく楽しいし幸せだ」。
これが住民たちの「いのちの作法」です。人間ってこんなに品格がある存在だったのだと、はっとさせられます。憲法でいうと「人間の尊厳」という固い言葉になってしまいますが、ここではそれが普段着をまとっています。
なお、この映画はこれまでも各地で自主上映されてきました。上映の申込みは下記の「問合せ先」で受け付けています。
【映画情報】
製作:2007年 日本
監督:小池征人
企画・プロデューサー:都鳥拓也/都鳥伸也
製作総指揮者:武重邦夫
時間:107分
問合せ先:記録映画『沢内・いのちの作法』制作推進委員会 (1)東北担当 都鳥拓也/都鳥伸也 TEL 090-8593-0597/090-2637-5670 (2)全国担当 中越信輔 FAX 044-911-0981
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