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憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (207) 映画『カルラのリスト』

公開日: : シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (207)
映画『カルラのリスト』
(初出2007年10月29日掲載・H.T.さん記)
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21世紀の今も、世界では国益や民族の利益の名のもとに、戦争や紛争が激しさを増し、毎日無辜の人々が殺され、集団虐殺や人道に対する犯罪などが続発しています。正義を回復するためには、犯罪者を処罰する法の支配を実現することが不可欠です。この映画は、旧ユーゴで起きた集団虐殺、人道に対する罪を犯した指導者を追及している「旧ユーゴ国際刑事法廷」の国連検察官、カルラ・デル・ポンテのひるむことのない闘いを描いたものです。

この法廷は、旧ユーゴにおける犯罪を扱う法廷ですが、国際社会で法の支配を実現するためには恒常的な機関が必要です。そのため、2002年、オランダのハーグに国際刑事裁判所(ICC)が設立されました。日本はようやく、今月の1日に105番目の締約国として加盟しました。この映画は、これに合わせて公開されることになりました。今改めて国際社会における法の支配を考えるのに良い機会です。

1991年の冷戦崩壊の影響で、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国(旧ユーゴ)を構成していた6つの共和国は、民族同士の対立で、06年6月までに6つの共和国に分裂しました。その過程で、コソボ紛争その他の多くの殺し合いが行われました。92年にボスニア・ヘルツェゴビナが旧ユーゴからの独立を宣言すると、民族同士が領域の拡大、「民族浄化」を目指して激しく衝突しました。このボスニア紛争の末期の95年、セルビア人勢力がモスレム人(イスラム教徒)が大半を占める炭鉱の街を包囲・攻撃し、約7800人の男性を虐殺しました(スレブレニツァの虐殺)。強姦や性奴隷もありました。
国連安保理は、旧ユーゴ領内で行われた虐殺事件の責任者を起訴し裁くための前記の刑事法廷を開設しました。この法廷は警察力がないため、犯罪者の逮捕は各国の協力に委ねられます。カルラはここに検察官として送りこまれ、スレブレニツァの虐殺の首謀者2人の事件などを担当します。主な仕事は、各国の首脳に会って犯罪者逮捕の協力を取り付けることです。しかし、犯罪者は、ある意味で自民族の英雄です。それにEU加盟問題などさまざまな政治的な思惑も絡み、協力取り付けは困難を極めます。犯罪者の逮捕には各国の情報交換が不可欠ですが、ほとんどの国が非協力的です。紛争や虐殺が自国や自民族の利益のために行われたのと同様に、国際社会が犯罪者を逮捕、処罰するかどうかも自分たちの利益を基準に判断していることが鮮明に浮かび上がります。

さて、恒常的な機関である国際刑事裁判所(ICC)は,「集団殺害罪」「人道に対する罪」「戦争犯罪」「侵略の罪」を管轄します(但し、「侵略の罪」については定義について合意できず、今は扱えません)。日本の加盟が遅れた理由として、アメリカのブッシュ政権が署名を“撤回”したことへの配慮などが挙げられています。現在も米中露などが未加盟です。

映画の最後の方のシーンで、スレブレニツァで夫や息子を失った1人の婦人が、「罪をたった2人に負わせるなんて」とつぶやいたのが印象に残りました。監督の心のどこかに引っかかっていた疑問をセリフとして採用したのでしょう。当時、民族が違うということだけで隣人や同僚が殺戮に参加しました。虐殺に関わった全員が何らかの意味で加害者です。訴追された者を逮捕することに大変な苦労をする基底には、民族の構成員一人ひとりの加害者意識のなさがあります。国や民族を問わず、武力や暴力の行使を徹底して否定する日本国憲法の思想を広げていくことの必要性を痛感せずにはいられません。翻って私たち日本人を見ると、先の大戦の加害者意識を一人ひとりがどれほど持っているかも考えさせられます。その意味では、私たち自身の姿勢が問われる映画でもあります。

映画の大きな見所は、国際社会で正義を実現しようというカルラの信念の硬さと、各国の首脳を前に一歩も引かない、冷静で粘り強い交渉力です。「先が見えなくても諦めてはならないという目の輝き、視線の鋭さは、台詞以上に雄弁です。ですからこの映画は是非、国際社会で活躍したい多くの若い人たちに観てもらいたいです」(新倉修弁護士・青山学院大学大学院法務研究科教授―映画のパンフレットより)。

【映画情報】
製作:2006年 スイス
時間:95分
原題:CARLA’S LIST
監督:マルセル・シュプバッハ
出演:カルラ・デル・ポンテ他
協力:アムネスティ・インターナショナル日本

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