憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(272)
映画『リダクテッド 真実の価値』
(初出2008年11月3日掲載・蓼沼紘明 記)
「この映画は実際の事件と似ているが、フィクションです。イラクのサマラで起きたことに基づき、その前後を想像しました。」という字幕で映画は始まります。
その事件とは―06年6月、サマラに駐留し検問所で警備に当たっていたアメリカ陸軍の兵士たちが民家に押し入り、14歳の少女を輪姦した後証拠隠滅のため突撃銃を数発撃ち込んで頭を粉砕、身体に油をまいて火で焼きました。さらに少女の父母と妹も射殺しました。犯人たちは除隊し、帰国しましたが、事件が発覚して逮捕されました。
ところが、この事件はあまり知られていません。軍の検閲で、ニュースは「リダクテッド」=「編集済み」となり、詳細が隠蔽されたからです。
闘将ブライアン・デ・パルマ監督は、現場で兵士が撮ったプライベートビデオや兵士の家族のチャットなどを詳細に調査しました。そして、HDビデオによって撮影されたドキュメンタリータッチの複数の映像を再構成し組み合わせるという斬新な撮影方法で、「編集されない」“真実の価値”に迫りました。
検問所の兵士たちは、暑さの中、55キロの装備を背負い、自爆テロや狙撃される緊張と退屈に耐えながら立ち続けています。ある日、停止線を越えた車を自爆テロ攻撃とみなして銃撃します。乗っていたのは産気づいて病院に急ぐ妊婦。母子ともに死亡します。「この2年間で検問所で殺された2000人のイラク人のうち、“敵”は60人だけ。有罪になった米兵はいない」と字幕。「魚をさばいた程度だよ」と兵士のセリフ。
「この国の人間は俺たちに死んで出て行ってもらいたいと思ってる」と言う米兵たちは、開戦時の認識と違い、自分たちが嫌われていることを良く知るに至っています。緊張と憎悪と退屈から、ついに毎日検問所を通って通学している少女に目をつけます。「女こそ戦利品だ」。そしてある日、武装したまま少女が住んでいる家に‥‥。
ベトナム戦争の時は、戦場写真家が撮った数々の悲惨な映像が世論を揺さぶり、大規模な反戦運動を巻き起こしました。政府はそこから、戦場の真相を国民の眼から遮断することを学びました。これがイラクやアフガンの戦争が長引いている大きな要因になっています。
戦場の真実は、民主主義社会の基礎を支える「知る権利」の中核となる対象の一つです。情報を隠蔽し、あるいは虚偽の情報を流しているアメリカの現実。その結果何が起きているか―ラストの画面を覆う、るいるいたる民間人の死体たち(実像)は既に無言です。見ている私たちも言葉を失って無言だとしたら―私たちもある意味で既に殺されています。
【映画情報】
製作:2007年 アメリカ/カナダ
時間:90分
原題:Redacted
監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
出演:パトリック・キャロル/ロブ・デヴァニー/イジー・ディアス/ タイ・ジョーンズ/ケル・オニール/ ダニエル・スチュワート・シャーマン
上映館:シアターN渋谷他全国で公開中
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