憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (247) テレビ『あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった―カウラ捕虜収容所からの大脱走』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (247)
テレビ『あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった―カウラ捕虜収容所からの大脱走』
(初出2008年6月9日掲載・蓼沼紘明 記)
(註)下記の解説中のテレビ放送の放送の案内は、この記事が掲載された2008年当時のものです。
2008年に度のようなテレビ放送がされていたかという視点でご覧になってください。
日本では「戦後」はまだ終わっていないとは内外からよく指摘されることです。そもそも戦前の歴史は知られているようでいて、知られていないことがたくさんあります。このドラマは、脚本家の中園ミホさんが元軍人の伯父が収容されていた捕虜収容所を訪れたことをきっかけに、実際にあった最大規模の大脱走事件を題材にしたものです。
オーストラリアのシドニーの西方に小さな町カウラがあります。ここには、南太平洋で餓死寸前になりながら生き延びた日本兵たち1000人余の捕虜収容所がありました。嘉納二郎(大泉洋)と朝倉憲一(小泉孝太郎)もそこに送られてきました。
日本兵の海外における戦死者の大半は餓死です。筆者は、先月、近所に住む90歳の、フィリピンのネグロス等を占領していた元日本兵から聞き取り調査を行いましたが、仲間たちが次々と餓死してゆく様は想像を絶しました。米軍の投降の呼びかけを拒否しての山中の逃避行が餓死を招きました。90歳の老人は、遠くをみやりながら「生きて虜囚の辱めを受けず。死して罪禍の汚名を残すこと勿れ」という戦陣訓を口にしておられました。
さて、ドラマでは、嘉納や朝倉は、収容されたカウラの捕虜収容所で思いもよらない光景を目のあたりにします。当時の捕虜の待遇を定めたジュネーブ条約によって、基本的人権を尊重され、、豊富な食料や日用品がありました。また、野球やマージャン、花札まででき、十分なレクレーションの機会も保障されていました。そこには、捕虜は、敵味方という立場の違いはあれ、戦いあった英雄同士であるという考え方が見られました。捕虜となり処刑されると覚悟していた兵士たちの心は和みます。
次第に人間らしさを取り戻してゆく朝倉らでしたが、生き恥をさらしていいのか自問の日々が続きます。そんなある日、軍曹・黒木(阿部サダヲ)らが新たに捕虜として加わります。「戦陣訓」を声高に叫ぶ黒木たち。ついに、1944年8月5日、日本兵捕虜1104人が暴動を起こし集団脱走を図りました。脱走は、その日の夜、トイレットペーパーの紙切れに○×を書いて投票して決められました。生き延びるための脱走ではなく、死ぬための脱走でした。結果、231人が死亡し、31人が自決しました。当時の日本政府は、事件を隠蔽しました。
中園さんによれば、未だにカウラにいたことを恥じとして隠している方がたくさんおられます。亡くなった方は偽名のまま日本人墓地に眠っています。戦死と伝えられた遺族の方々は墓参のすべもありません。国民にとって戦争とは何かを改めて考えさせられる作品です。
【放送】日本系 2008年7月8日(火) 午後9:00~
【製作】2008年 日本
【脚本】中園ミホ
【出演】大泉洋 小泉孝太郎 阿部サダヲ 淡島千景 山崎努
ad
関連記事
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (160) 『あなたを忘れない』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (160) 『あなたを忘れない』 (初出2007年2月12
-
-
第73回憲法を考える映画の会『流血の記録 砂川』
第73回憲法を考える映画の会『流血の記録 砂川』 と き:2023年12月23日(土)13時半〜1
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (239) 映画『マンデラの名もなき看守』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (239) 映画『マンデラの名もなき看守』 (初出2008
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (194) 映画『夕凪の街 桜の国』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (194) 映画『夕凪の街 桜の国』
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (226) 映画『君のためなら千回でも』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (226) 映画『君のためなら千回でも』 (初出2008年
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (118) 『朗読劇「この子たちの夏」 ―1945・ヒロシマ・ナガサキ』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (118) 『朗読劇「この子たちの夏」 ―1945・ヒロシマ
-
-
憲法を考える映画の会―小さな上映会@中野『シバサシ―安里清信の残照―』
憲法を考える映画の会―小さな上映会 @中野 “抗い”の軌跡を見つめる #2〈沖縄編II〉映画『シ
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (26) 『やさしい嘘』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (26) 『やさしい嘘』 (初出2004年11月8日掲載
-
-
証言 侵略戦争 人間から鬼へ、そして人間へ
三人の侵略戦争体験者は、自らの加害行為を語ってきた。子供の頃には虫も殺せなかった人間が、戦場
-
-
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (32) 『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (32) 『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』 (初出

