*

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(270) 映画『ホームレス中学生』

公開日: : 最終更新日:2026/10/03 シネマDE憲法, 作品紹介

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(270)
映画『ホームレス中学生』
(初出2008年11月10日掲載・蓼沼紘明 記)

ホームレス中学生

「麒麟」の田村裕の自叙伝を再構成した作品です。原作は200万部を超えるベストセラーになりました。田村さんは、中学時代に自宅が差し押さえられ、一家離散を経験しています。

それもただの離散ではありません。明日から夏休みというある日、中学2年生の田村裕(小池徹平)が帰宅すると、自宅玄関に差し押さえの張り紙があり、家に入れません。父(イッセー尾形)は、「はい。解散。元気でな」の言葉を残しいずこかへ消えてゆきます。まだ大学生の兄と高校生の姉に負担はかけられないと思った裕は、とっさに「友達の家に泊まるから」と言っていち早く立ち去ります。かばん一つ持って行った先は、近くの小さな公園。ねぐらはウンコ型のすべり台。必死の野宿生活が始まります。まさにゼロの状態に置かれた裕を見ていると、人間が生きてゆくためには何が必要か、切実に身にしみます。映画は裕のゼロからの脱出のプロセスを、裕の成長(自立)という視点を強く意識しながら展開してゆきます。

中学2年生といえば思春期。自意識が日増しに強くなり、自分とは何だろう、さらには人間とは何だろうという悩みや壁に多かれ少なかれぶつかり、自分や周囲と格闘しながら自我を形成し自立に向かって歩み出すときです。

極限状態に置かれた裕の自立を可能にしたのは何でしょうか。
裕を支えたのは、まず周囲の暖かい援助でした。弟を思う兄と姉。そして同級生の両親や身銭を切る民生委員。遊び場のすべり台を奪われた小学生たちがそっと置いてくれた一つの真っ赤なりんご。街のさまざまな人たちの助け合いで社会は成り立っていることを改めて強く感じさせてくれます。それが希薄になってきている現在、この当たり前のことが陳腐に見えません。
周囲は、時に裕を突き放します。先が見えない生活で「生きてるのがめんどくさい」と自暴自棄になる裕に対して「俺だってしんどい。俺たちから離れていくのか一緒にいるのか、自分で決めろ」と兄。「先生だってしんどいのは同じ。だけどみんな君からパワーもらってる。君はみんなを笑わせてくれる」と一言だけかけて背を向ける28歳の女性教師。

しかし、しょせん限界があります。そこを補うのがセーフティーネット。裕たち兄弟は生活保護を受けて一緒に生活することになります。もっとも、人並みの将来を設計するためには高校、さらには大学に進学しなければなりません。そこで食事は1人1日100円に切り詰めます。それはどんな食事か。ヨーロッパの福祉国家では、高校や大学の教育費を無償ないし全額貸し付けているところが少なくないことが頭をよぎります。

自立を可能にした三つ目は裕が8歳の時に病死した母(古手川裕子)の溢れる愛情でした。「お母さん、ありがとう。またお母さんと会えたとき、しゃべれることがいっぱいあるように頑張る」。母の愛が、裕の心の一番奥深い所から湧き出してくる強さを引き出します。

憲法は、社会が自立した強い個人である「市民」を育てることを前提にしています。そのためには何が必要か、考えさせてくれる映画です。
 「ホームレス」自体の問題は河村健夫弁護士に解説していただいています。

【映画情報】
製作:2008年 日本
監督:古厩智之
原作: 田村 裕(「ホームレス中学生」ワニブックス刊)
時間:116分
出演:小池徹平/西野亮廣(キングコング)/池脇千鶴/イッセー尾形/古手川裕子/いしだあゆみ/田中裕子

ad

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

関連記事

122対馬丸―さようなら沖縄―

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (122) 映画「対馬丸―さようなら沖縄―」(8/15テレビ放映)

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (122) 映画「対馬丸―さようなら沖縄―」(8/15テレビ

記事を読む

チェチェンへ アレクサンドラの旅

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(278) 映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(278) 映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』 (初出

記事を読む

第58回「言わねばならないこと」「ショック・ドクトリン」2021・3・27 (延期決定用)

第58回憲法を考える映画の会

第58回憲法を考える映画の会 TVドキュメンタリー番組『言わねばならないこと─防空演習を「嗤った」

記事を読む

イブラヒムおじさんとコーランの花たち

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (32) 『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (32) 『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』 (初出

記事を読む

シリーズ戦争と女性

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (246) 「シリーズ戦争と女性」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (246) 「シリーズ戦争と女性」 (初出2008年6月9

記事を読む

272リダクテッド 真実の価値

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(272) 映画『リダクテッド 真実の価値』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(272) 映画『リダクテッド 真実の価値』 (初出2008

記事を読む

野獣たちのバラードリーフレット

ありふれたファシズム─野獣たちのバラード─

ありふれたファシズム─野獣たちのバラード─ の作品紹介 1971年日本での公開時は、邦題が『野獣た

記事を読む

第36回「『テロリストは誰?』3

テロリストは誰?

テロリストは誰? 映画『テロリストは誰?』 2004年 フランク・ドリル:編集 120分

記事を読む

sato_main_B5

映画「さとにきたらええやん」

映画「さとにきたらええやん」 2015年/日本/100分 重江良樹監督   【映画

記事を読む

華氏451  フランソワ・トリュフォー

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (14) 『華氏451』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法> (14) 『華氏451』 初出2004年8月26日掲載 I

記事を読む

ad

ad


第90回「新・戦場の兵士」案内チラシ(2026年10月18日)20260916入稿時原稿オモテ
第90回 憲法を考える映画の会 『新・戦場の兵士』

第90回 憲法を考える映画の会 『新・戦場の兵士』 第9

チェチェンへ アレクサンドラの旅
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(278) 映画『チェチェンへ アレクサンドラの旅』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(278) 映画『チェチェンへ 

mv37621_8518906685fbb18e63c64d0829895e94806d7
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(277) 映画『いのちの作法―沢内「生命行政」を継ぐ者たち―』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(277) 映画『いのちの作法―

映画『私は貝になりたい』

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(276)  映画『私は貝になり

アムネスティ・フィルム・フェスティバル
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(275) 「アムネスティ・フィルム・フェスティバル2009」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(275) 「アムネスティ・フィ

274VIDEO ACT! ドキュメンタリー祭
憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(274) 「VIDEO ACT! ドキュメンタリー祭(渋谷)」

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>(274) 「VIDEO ACT

→もっと見る

PAGE TOP ↑